女神の祈り

□契約の募り
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「――いいよ。等価交換とやら、受けて立つよ」

 宣戦布告とも取れる許諾だ。

「嫌に素直だな?」

 素直に受け入れたのが予想外だったようだ。

「あんたを見ていたかったからさ。俺の為せっせと動いてるあんたを、ね」

 嫌みったらしく微笑んでやった。意外に不意打ちだったようで男は面を喰らっている。豆鉄砲を喰らった鳩とはまさしくこのことだな、と俺は漏れ出しそうな声を押し殺した。

 すると男は間抜けな顔を伏せて、顔を歪めるわけでもなく突飛に笑い出したのだ。

「そうだよな。お前を突き動かす理由なんて、それで十分だよな」

一頻り笑った後、(貶したとも言ってもいい。)男は上体を起こし、ベッドからそっと降りた。

「今すぐにロンドンに向かって、俺の弟子を探せ」

 こんな男にも弟子がいたんだな、と頭の片隅で思いつつも、その弟子の特徴を聞いた。

「白髪のガキ。顔にペンタクルがある」

 そんなアバウトな話で見つかるはずないだろうと男を睨み付けると、男はベッドから退散して懐からピアスを手渡した。

「そいつァ、ティムに内蔵された探知機を逆探知できる優れモンだ。因みにティムを介して盗聴も可能だ」

「つまりこれで弟子を探せと?因みに俺は誰かさんみたいに盗聴すような変態じゃないんでそんな趣味は持ち合わせてないよ」と小さな抵抗を見せた。

「そんでもって本部に行って奴をを監視しろ。但し本部に着くまで奴とは会うな」

 何故、そんな回りくどいことをするのかと思った刹那、奴はズボンのポケットに手を突っ込んでマッチと煙草を取り出した。煙草に火を点けると紫煙が広がる。

「まだ武器も使いこなせないガキだからな。小手調べじゃねえが力量を見てやれ」

 それだけ言うと奴はベッドサイドに紙切れを置いて部屋から出ようとドアノブに手を掛けた。

「お前は、お前であることを忘れるな」と消え入りそうな声で呟くとパタリと扉が閉まった。

「どういうことだよ…?」

 奴がどんな意図で言ったのか、俺に何を伝えたかったのか、理解できずに、ただ空虚に吐き出された疑念だけが木霊するのだった。ふとベッドの脇のテーブルに鎮座する紙切れを見つめた。洒落た紙切れを暫く凝視しそれを手に取った。淡い桜色のそれには繊細な模様が描かれており、中心に堂々と綴られた文字を指でなぞった。

「気障な奴」

 カーテンの隙間から光が漏れ出し、囀る小鳥が朝の訪れを告げる。ベッドに沈んでいた上体を起こし勢いよくカーテンを開けた。差し込まれる朝日は何とも美しく、全身に染み渡る暖かさは俺を清々しい気分にさせた。

 葉に滴る朝露が光を反射しキラキラと輝いては柔らかく揺れ動いていた。麗しい景色を塗り潰すように俺は、紙切れをぐしゃりと握りつぶして灰皿の中に放り込んだ。

 この先に大きな闘いが音を立てて迫ってきていることを予感しながら。

「さて、行くとするか…」





The end
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