短編小説
□お揃いを忍ばせて
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くったりと萎びたそれを受け取った土方は、あまりの不可解さに思わず目を瞑った。
「いやあ良かった多串くんに会えて。渡しそびれるとこだった」
「…これは何だ」
「へ?煙草?ほらこないだオレにジャンプ買ってきてくれた時に一緒に袋」
「だからこれは何だ」
土方の掌には、ポケットに入れたまま洗濯物と一緒に洗ってしまった紙類、といった風情をたたえる煙草の箱が乗っていた。
「だからぁ」
「しかもてめぇ、これ吸いやがったな」
「え、ああ、なんかさ〜、あの後甘いもん食いたいのに手持ちはねえしうっかり飴的なものまでねえしで、つい手が出てネ」
奇しくも同じコンビニで同じ曜日同じ時間に出くわした二人は、今日もレジの前を陣取っている。
「喫煙者なのか」
「んにゃ、吸ったこたあるけど、オレは煙より糖分だな」
レジのジャンプの上にチロルチョコを重ねると銀時は店の奥で商品を整理する店員にすいまっせーんと間のびした声をかけ、財布ではなくポケットから小銭を取り出しカウンターに並べる。
「財布使えよ、貧乏くせえ」
「無駄使い予防なんですう。つーかまじで極貧なんですう」
「ならんなもん買うな」
「いいんですう。糖分とジャンプがあればいいんですう」
「あの、お客さま」
こちらも先日と同じ店員がジャンプを手に続ける。
「こちら、一昨日発売の号でして、たしかお客さまはお求めになられてましたよ、一昨日」
「へ?」
「中身ご確認になります?」
「へ、はい」
銀時がパラパラ捲ったページには確かに見覚えのあるシーンや台詞が描かれている。
「あーそっか。この土日暇すぎてジャンプずっと読んでたら一週間経った気になってたんだ、はいはい」
「はいはいじゃねええ!!てめえは今すぐ腹を斬れええ!!」
「いや〜、店員の鑑だねあんた。チロルチョコ二個買っちゃうよ銀さん」
「人の話を聞けぇ!てめえも照れんなぁ!!」
手にした煙草の残骸を床に叩きつけての土方のツッコミが一段落すると、銀時は握りこぶしを土方へ突き出した。
その中には、先程ジャンプを買うために出した小銭達。
「じゃあ、はい。ありがとね〜」
「…は?」
「この前のジャンプ代。煙草分足りねえかもしんねーけど」
ん、と差し出された手に土方は一瞥をくれただけで今買ったばかりの新しい煙草に火を付けた。
「いらねェよ。そりゃてめえにくれてやったんだ」
「え、そう?んー」
そもそもまさか、煙草も、小銭も、返されるとは思っていなかった土方は内心驚き、そして何故だか落胆しつつも、珍しく歯切れの悪い銀時に眉を寄せた。
「なんだよ、何か不満か」
「いやあ別に。……オレ多串くんになんか貸したっけ?」
「は?なんでいまの流れでそうなるんだ」
心底怪訝な顔をする土方に、銀時はいやだってさあ、と続ける。
「オレに物くれたときは嬉しそうな顔するし、返そうとするとしょんぼりするし。オレが貸した物壊しちゃった多串くんの罪滅ぼし的な?」
しょんぼりなんぞするかあ!や、てめえから何借りろってんだこのマダオがあ!などというツッコミを待っていた銀時が、だが何の反応も示さない土方を訝しみ視線を上げると、そこには可哀想なほど真っ赤な顔で呆然とする土方がいた。
半開きの唇にかろうじて煙草が引っかかり、それをなんかエロ、と思った銀時は胸中で必死に自分を否定する。