リクエスト小説
□追憶の最愛
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土方の行動理念は昔から変わらない。
近藤勲その人の影になり盾になることそれだけを考えて生きてきた。
だから、攘夷戦争への参戦を人知れず決意したその理由も、間違いなく近藤のためであったのだ。
(近藤さんはあの頃から、)
平和な世界、太平の世を求めていた。
(オレはその時、今より力もなく、頭も足りず、それでも何か、何かこの崩れていく世界を救う方法を見つけたいと思っていた。それが近藤さんの願いだとわかっていたからだ)
まだ真選組が結成される前。戦場に行くことを決めたのは自分自身だった。平和を乱す戦争に、密かに有志を募り赴いた。戦争に勝てば平和になるのだとただ単純に信じていたのだ。
近藤にも言わず、独断で動いた土方はそこで多くの仲間を失った。殺したのだとも言える。無計画な喧嘩剣法で生き残れるほど戦場は甘くはない、なかで、土方は白夜叉に命を救われた。
運が良かった、巡り会わせ、偶然、運命、何でもいい。とにかく土方はわずかな仲間と共に生き残った。
――あんたら人間?
銀時は折れた刀を捨てながら言った。捨てた刀に見向きもせずに土方の仲間の死体、武州からの仲の男の死体から天人の青龍刀を引き抜いて具合を確かめるようにひと振りする。
「お前は、お前が、白夜叉か」
銀時はうん、と頷いて青龍刀を片手に土方を見た。どきりとする目の強さだった。
「あ、ごめんなんつった?」
「だ、てめえが白夜叉だろう」
「近くに野営地あっから行きな。人間なら誰でも助けてやってっから」
銀時は土方の声にまるっきり耳を傾けずにただそれだけ言い残して去った。真実、土方の言葉など聞こえていなかったのだろう。銀時に必要な言葉を土方は知らない。
陣地に匿われた土方達は傷に酒を吹き掛けるだけの粗っぽい治療を施され、そこで悲惨な戦争の実態を目の当たりにした。
累々重なるのは死体ではない、まだ生きた、それなのに半身腐った戦士。嫌な臭いの立ち込めるその場でこの戦争がもはや末期であることを悟った。
(これは負け戦だ)
負ければ賊軍。
当然のことだ。
負けたなら近藤の傍にはいられない。彼の志に沿うことも叶わない。
負けてはいけないことぐらい理解できたが、この負け戦をひっくり返すほどの力など今も昔も土方にはなかった。
だから、残された道は裏切りしかなかった。
泰平の世を実現するには幕府側に取り入るしかない。まっすぐ伸びたその一本道は大義名分ばかりがまかり通るひどくうす汚れた茨道だった。
裏切りはうすく月の霞む夕暮れにやって来た。背中に揺れる髪が、光をはじいていた。
土方は、土方の素性を知る、共に銀時に救われた仲間のすべてを斬り戦場から逃れた。土方はその時、鬼になったのだ。
背中ごしの銀時の存在にはもちろん気がついていた。