短編小説

□鴉映え
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 銀、と呼ばれた瞬間、高杉は苛つきと悦びを覚えた。
 銀時の名を呼ぶな、という思いと、やっと堕ちたという思い。

 まるで銀時に成り代わったような高揚感。偽物であるような喪失感。

 腰を掴み昴ぶった自身を埋める。

「土方ァ…、良いのかよ」
「ー!!!う、くう、ああ、はあああんっ!!ぎん、ぎんときィ」
「…そうだ、ずっと呼んでろ」

 土方は高杉のモノを咥えこんだ臀部を高く突き出し、壁に向かってひたすら見えない目で銀時を呼び続ける。

「…は。汚ェ奴…」
「うああ、ぃ、あああん、ぃっ、出、る」
「イきてぇなら、言えよ。いまてめえがどんな状態か…」
「ひぐっ、」
「オラァ、手放してやんねえぞ」

 自身の根本を掴まれ、ぴくぴくと痙攣しながら土方が甘い息を吐いて首を振り、言えない、と泣いた。

「言え」
「ひァ、う、うァ、ああ、なか、に、はいって、て」
「くっ、何の中だよ」
「尻の…」
「どんな」
「…ぐちゃ、ぐちゃの…っく、尻んなか…に」
「誰の何が入って、てめえはこんなに腰振ってんだよ」

 白い背中に、肌を喰い破るように犬歯をたてる。















「か、すぎ…」

「あ?」
「たか、すぎの、が」

 皆まで言う前に、がつん、と腰を打ち付ける。

「いぁあああア!!!ぎ、…て」





















 ぎんときたすけて。




 気を失ったらしい土方からずるりと自身を引き抜くと射精もしていないのに萎えきっていた。

「てめえはっ…!」

 苛立ちに壁を蹴る。

 何処までだ、何処まで浅ましいんだ。銀時助けて?助けてだと?助けになんて来るはずがないそんなこと自分で良くわかってるだろうに。
 オレの物だ!


 銀時はオレの物だ、お前だってオレの物だ。
 銀時を盗ろうとするお前が憎い。不器用でだが歪まないお前が憎い。
 歪め歪めと。歪め!!!

 幕府の狗のくせに何故。真っ黒なくせに何故。浅ましい思いを抱きながらなぜ。


 銀時にオレは抱かれた。抱かれたんだ!お前より上だお前より上にいる!



 無理に誘った。でもだから何だという?
 絡みついただけで、口淫しただけで、その気になったのはあいつだ!

「…死にたがってたなァ、てめえ」

 天井の鎖を外すと、派手な音をたてて土方が床に落ちた。
 圧しかかり、首に両の手をかける。

「死ねや…」

 指を皮膚に食い込ませ、首を絞めると、その息苦しさに土方が身じろいだ。

「……ぅ、」
「死ね」
「た、か」
「うるせェ…」
「たかす」
「うるせェ!」

 殴った衝撃で土方の包帯がずれて、左目だけが現れた。
 泣きはらした目元は赤く、目尻にはまだ涙が溜まっている、が。


 敵意と殺意が灯る、黒々とした、瞳孔。



「くくく…くっくっ」




 鴉だ。





 悦びに笑いがとまらない。背を反らして笑う。


「…てめえ、オレを捕まえられるかよ」
「斬る」
「さっきまで腰振ってた雌豚にゃァ見えねえなァ」
「斬る」
「……てめえはこんなに綺麗なのになァ」











 ああ銀時。てめえは馬鹿だ。
 こんなに綺麗で尖った男を捨て置くのだから。

 甘い顔をしなければ、好意にさえ気づかないなんて。










「銀時なんか見ずに、オレを斬りに来い土方」










 捨て置かれた鴉はいつしかゴミ溜めのなかを這う。黒く濡れた翼は、虹を映しているのに。







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