リクエスト小説
□花殻
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「あんた、そんなに嫌なら断りゃいいじゃねェですかィ」
屯所。日差しの強い今日、閉め切った部屋にこもって書類を捌いていた土方は思わず煙草を取り落とし、沖田を睨みつける。
「なんのことだ」
「何って、今晩の接待でさ。こんな死にそうな顔した男侍らして楽しいわけもねえし、先方だって近藤さんが出りゃあ文句ねえでしょう」
ああ、と土方は肩の力を抜き、落とした煙草を拾い火を点けた。肺まで煙を吸い吐き出しながら言う。まさか万事屋との関係を言い当てられたかと思ったなんて言えるはずもない。
「…指名までされてんだ、断るほど今は立て込んじゃいねえし」
「あんたの身体なんかこれっぽっちも心配じゃねえですけど、…その様子じゃァ接待なんか出ても悪印象なだけでさァ」
「うっせ。さっさと報告書出して仕事戻れ」
報告書を取ろうと伸ばした土方の手を、沖田も腕を引いてかわす。
「…なァにかりかりしてんでィ」
「悪かったな」
さらに腕を伸ばす土方から逃れた沖田はため息を吐く。
「あんた、夜遊びがばれてねえとでもお思いで?」
舌打ちをしかけた土方の顔色がさっと変わる。怒気と狼狽の混じった表情に、沖田は肩を竦めた。
「山崎がうるせぇからとりあえず忠告しときまさ」
「てめえ…どこまで」
「あんたが本当に雌豚だったってことくらいしか知りやせん」
かっと頬を染めた土方に沖田はため息を吐いてやれやれと首を振る。
「何してんだかねィ」
「…関係ねえだろ」
「思春期の中学生ですかィ?関係ねえで済まねえでしょうが。遊郭に入り浸ってるくれェなら構いやせんが、ケツ掘られた後に襲われたらあんた応戦できるんで?」
「…っ」
「そもそも真選組副長ともあろうお方が男色なんて、外聞てもんをよく知ってるあんたなら、それがどんなにイメージダウンになるかわかってんでしょう」
「…オレはっ、」
「あんたと旦那との間にどんな契約だか感情だかがあるんだかは知らねえし詮索する気もありやせん。でも昼間に一度だって会おうとしねぇで、夜だってヤるだけなんて自ずと」
「やめろ!!!」
畳をだん、と拳で殴った土方を沖田は虚を突かれた様子で見てから、机の書類を払いのけて土方の目の前に顔を寄せる。
「…まさか旦那のこと、本気なんですかィ」
「うるせェ」
「遊びでんなことできるお人じゃねえってのはわかってやしたけど、…あんなマダオどこがいいんですかィ」
「…てめえが誰のこと言ってんだかは知らねえが」
「土方さん」
「もう、出歩かねえ」
それだけ言うと土方は沖田の手から報告書を抜き取り、出てけ、とちいさく唸った。
何事もなかったようにへいと返事をして部屋を出た沖田は大きく伸びをして、憎いほど青い空を見る。
「哀れなもんだねィ」
そういや土方さんにバズーカ打つの忘れてたぜィ、と呟きながら沖田はぺたぺたと廊下を歩いていった。