HighSchoolJump

□入学式
1ページ/2ページ


 間の抜けたチャイムが響いている。さあ今日からオレもこーこーせーだー。






 遅刻だー。






++++

 晴れ晴れとした空は春らしい薄い青。桜も零れ落ちそうに満開に花開き、いかにも入学式に相応しい四月の日。

 その青と桜に興を添える銀色の髪の少年が、遠くに響くチャイムの音を聞きながらゆっくりと歩いていた。
 のんびりというよりは、だらりとして。
 制服のブレザーはよれているし、シャツはズボンからはみ出しているし、その容姿からはやる気の欠片も見当たらない。
 彼は坂田銀時という。

「くぁ〜っ…、朝っぱらから入学式とかやんじゃねーよこのやろー」

 チャイムが聞こえるのだから、すでに入学式の始まる時間であろうに、銀時は急ごうともしない。

「…あーあ、もうフけちまおっかな」
「そーすっか」
「うん、じゃ…あれ?」

 跳ねた髪を掻きながら大きく欠伸をして、猫背を正そうともせずに歩く銀時の隣にいつの間にか並んでいたのは隻眼の少年、高杉だ。
 黒い詰め襟の制服のボタンを全て開け、中のラグランの赤いTシャツが丸見えで、一見するととても新入生には見えない彼は、しかし銀時の幼なじみ。
 中学まで同じ学校同じクラスがずっと続いた腐れ縁だ。

「…何してんの高杉」
「てめえんトコとは最寄り駅同じだっつっただろうが」
「あー、そうだっけ。で、お前も遅刻?」
「フケる」

 当然のように言う高杉に、銀時は頭を掻いた。

 中学の頃、出来の良い方ではなかった二人は義務教育で出席日数制限の緩いことを盾にいつも遊び呆けていた。
 特異な外見のお陰で、遊びに誘われることも多ければ逆に喧嘩を売られることもままあり、さらに剣道で鍛えた腕前で楽々と勝ってしまうものだから、それはそれは近隣の盛り場では有名な二人だったのだ。
 その生活を銀時自身、楽しんではいた。
 楽しかったことは確かなのだ。
 ちやほやされるのは気分がよかったし、悪ぶるのは簡単だった。

(でも、だめだよなあ…)

 あの日のことを思うと、どうしてももう、誰かを殴ったりだとかそういう陰惨なことをしたいという気が、しなくなってしまう。

「オレはこれからまじめに生きてきますから」

 特別決心をしたわけではないが、受験の際のヤマ勘で自分の実力より大分上の偏差値の学校に入学してしまった銀時は、入学後には止めてしまった剣道をもう一度やってみてもいいだろうかくらいには思える落ち着いた思考回路を取り戻していた。
 もとより嫌で止めたわけではない。
 団体行動の苦手な銀時であるから、部活動に入るのに抵抗があるのは確かだったが。

 一方、首都圏でも有数の荒れた校風の成井に進学した高杉は眉をひそめた。

「ああ?まーだんな事言ってんのかよ。てめえなんか大江戸入ったって一ヶ月で退学になんのは目に見えてるだろ。もとから裏口入学だしな」
「いや裏口じゃないって!銀さんちゃんと受験したからね!」
「…ま、なんにしても、入学初日から遅刻してる野郎をまじめとは呼ばねえって所だな」

 女に貢がせえらく高い時計に目を向けた高杉が鼻を鳴らしながら言う。

「げ、そーだオレ遅刻してたんだった。…もーいーや高杉のせいにしよ…」
「何でだよ」
「成井の生徒に絡まれてましたって言えば許してくれんだろ」

 そう言うと銀時は分かれ道を右に曲がる。右には都内有数の進学校、大江戸高校。片や左は成井高校。

「…つまんねえ野郎」
「はいはーい。ごめんね晋ちゃんまた遊んでね〜」

 やる気なく再び歩き始めた銀時の背を微妙な視線で見つめたあと、高杉も左の道へと踵を返した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ