過去拍手小説

□原付マヨネーズ
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「そこのかわいー土方くん、乗ってかない?」

 原付のハンドル部分に顎を乗せて垂れ下がるようにだらりと座っていた銀時は、屯所から出て最初の角で土方に片手を上げながら、そう言った。

 次の日が非番の土方は、もう夜中も過ぎたようなこんな時間にようやく職務を終えて、いま目の前にいる坂田銀時そのひとに会いに行くはずだった。

「なにしてんだ、てめえ。遅くなっから、先寝とけって…」
「お迎え?」

 ヘルメットを投げよこすと銀時は座席の後ろをぽん、と叩く。

「乗れよ。こんな夜中に土方くんを一人歩きさせるなんてじょーだんじゃない」
「おまえな」
「あれ?銀さんに会えて嬉しくない?」
「別に」

 ヘルメットを持って俯いた土方の耳が夜目にも赤い。
 土方がてこてこと近寄り座席へ座ると、銀時はその手からメットを奪い、ぽすん、と頭に被せた。
 薄いクリーム色のヘルメットは、マヨネーズ色の、土方専用の物。

「かっわい」
「ちょっと活火山の火口まで一人でドライブして来いよ」
「え、死ねってこと?ねえ死ねってこと?」
「お前、ちゃんと寝てきたのかよ。…居眠り運転で事故ったら即逮捕すっからな」
「事故る前に起こしてよ…。や、平気だけどね。今日は土方くんのために一日中寝てたから」
「重り持って素潜りしろよ」
「ねえ死ねってことだよね死ぬよ銀さん」
「オレは眠ぃんだよ…」

 珍しく甘えた口調で土方が銀時の背中に額をつけると、じゃあはやく帰ろっか、と銀時が笑う。

「つかまった?」
「ああ」
「落ちないでね」
「落とさねえように気をつけやがれ」
「りょーかい」


 エンジンをかけると原付はどる、と音をたてて発車した。


 5月の柔らかな風のなかで、見えない星がそれでも瞬いているようだった。






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