HighSchoolJump

□遅刻
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「全員罰として一週間放課後校内清掃」


 校門を大破させるとさすがにすぐ教員が飛んできて、まんまと逃げ仰せた沖田と神楽を除いたその場にいた生徒会全員と銀時が校長室へと連行された。

「おいババアオレは被害者だ。むしろ原付弁償してほし…ぶべっ!」
「黙んな!校門破壊で罰掃除だけでも充分譲歩してやってんだろうがァ!」

 校長、登勢の言葉に納得せざるを得ない面々は、わかったらさっさと授業へ行けと校長室を追い出されて、ぞろぞろと廊下を歩く。自分の教室の前に着くたび生徒がひとり減りふたり減り、とうとう銀時と土方のふたりだけが残された。

「……」
「……」
「…………」

 気まずさに銀時の頬を冷たい汗が伝う。

(き、昨日はちゅーしてスイマセンとか言うべきなのか?でもオレキスは後悔してねえ!!悪いとは思うけどね!え?自己中?よく言われます!)
「おいそこの坂田」
「え、ここの坂田?」
「教室こっちじゃねえだろ。二年だぞこっち」
「つーかココハドコ?」

 本当にここが校舎のどの部分かも、ましてや自分の教室がどこかも銀時は知らない。それをわかった土方はものすごく不愉快そうに顔を歪めた。

「いいか一年は二階東校舎。二年は西。校舎の行き来は渡り廊下と、一階の靴箱あんだろ?そっからできっから。ここからなら階段で一回降りて東校舎に移動したほうがはええな」

 事務的にすらすらとのたまう土方をぽかんと口を開けて見ていた銀時は、じゃあな、と言って自分の教室に入ってしまおうとするその腕に追いすがった。

「ちょちょ、ちょ、ちょっと待って!!」
「んだ触んな変態が!」
「あ、やっぱり怒ってるう」
「わかってんなら話かけんじゃねえよきもい!」
「きもいって…!不登校になんぞこのやろー」
「なれマジでなれ!オレの平穏な生活を返…」

「うるさいわボケぇぇぇ!!!」

 土方の教室のドアががらりと開いて中から叫んだのは体育教師兼生活指導主任の松平。

「うお!ヤクザ出た!」
「カタギだよバリバリ教育者だよ!なんだトシそのガキは」
「…新入生…」

 銀時は脳裏にしっかりと今まで名も知らぬ先輩として扱ってきた土方を、トシとしてインプットした。
 それとともに松平に媚びた笑みを向ける。

「せんせーいオレ教室までの道がわかんねえんスけど」
「ああ?トシが案内してやればいいだろ」
「…な、とっつぁん!」
「じゃあよろしくお願いしまーす先輩」
「保体のプリントあとで取りに来いよー」

 そう言って閉められた教室のドアを絶望的な表情で見つめていた土方はゆっくり振り返り銀時を睨む。

「てめえ…」
「だって道ほんとにわかんねーし」
「なんでわかんねえんだよ」
「つーかオレ何組?」
「CだよC!!昨日言っただろうが!」
「なんでZじゃねえの?」
「Zなんてねえよ!26クラスってありえねえだろ!」
「いや…だって銀さんて色々規格外なイメージじゃん。なのにCって」
「てめえのイメージなんぞ知るか!C組なめんな!」
「え、先輩もCなの?」
「いやA」
「空気読めェ!ここはあれだろ!シスタークラスであらびっくりこれって運命!ってとこだろうがァ!!」
「Cは原田だな」
「原田?」
「ハゲてるからすぐわかる」
「いやハゲはどうでもいいし!つーか先輩トシって名前超可愛くね!?」
「アダナだそりゃ」
「本名は?」
「教えるかくそぼけかす。さっさと来い!」

 ずんずんと一年の教室を目指して歩いて行く土方の肩は怒りでがちがちに力が入っていて、思わず銀時はぷ、と笑みを漏らした。

「なに笑ってんだ」
「…え、いやいや。先輩って…ぷぷ。かっわいーぶふ」
「殺られたいか?殺られたいのか坂田。そうかなら遠慮はいらねえよ」
「え…そんな先輩笑顔で…。でもオレどちらかというとタチ…」
「そっちの意味じゃねえよ!!もうこのホモ嫌だ!キモい!別にホモを否定する気はねえけどおまえの人格は全否定してえ!!!」
「えー」

 話すうちにどうやら一年の教室に着いたらしい。ぴたりと止まった土方が顎で銀時に教室を示す。心底、嫌そうに。

「ここだ」
「お、ありがとー先輩」

 にい、と笑って礼を言うと一瞬面食らった土方はぷいと横を向く。

「さっさと行けボケ。放課後掃除サボんなよ」
「先輩と一緒ならサボんねーよ。……あとね」

 すう、と伸ばされた銀時の指は、身構える暇もなく土方のズボンの後ろポケットから煙草の箱をつまみ出した。

「目立ちすぎ。よくバレねえね?」
「げ」

 くるん、と指で一回転させてから箱を再びポケットに戻す。

「気をつけてねセンパイ。オレ以外の奴に見つかったらちゅーじゃすまねーかもよ?」

 笑ってみせると土方はますます顔を歪めて、さっさかもと来た道を戻ってしまう。

「センパーイ、オレ、意外と本気だかんねー」


 銀時の声は必要以上に廊下に反響して、土方はさらに足をはやめるのだった。




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