雨露

□一章 第一話
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 一般人を巻き込むわけにはいかないから秘密裏に。隊士達は自己防衛のため知らせておき、単独行動は絶対厳禁。
 下手人が誰かわからない以上はこちらからは手が出せないので徹底的に洗い出す。

「…こんくれえか」

 宿から出て、隊士の葬儀の準備をして。いつの間にか夜は明けて見たくもない朝日が煌々と光っていた。
 その足で屯所へと帰り近藤と土方はこれからの対応についてを話し合った。

「…せめて遺体を見つけてやりてえな」

 一通り意見がまとまった時、近藤がぼんやり自らの両の掌を見て言った。
 その願いが叶う可能性は絶望的に低い。首だけ落とした死体を下手人が保存しておくわけはなく、すでに処分されたものと考えるのが妥当だ。
 証拠を残さぬために燃したか沈めたか。手紙にも指紋を残さない奴らだ。

「そうだな」
「落ち着いたら改めて、もっとちゃんとした葬式もやってやりてえし」
「そのためにも、さっさと下手人をお縄にしねぇとな」

 慰めるように肩を撫でると、うん、と近藤が頷いた。
 泣いているのだろうか。

「近藤さん…」
「トシ」

 真選組にいるということは、いつ消えるとも知れない命であることだとわかっているのに、優しい近藤はそれでも涙を流すのだ。
 だから自分は泣かない。組織が組織として機能していくためには楔がいる。近藤は大きい男だ。人の上に立つ資格がある男だと土方は誰より認めている。しかしそれには決定的に優しすぎる。
 それを中和するのが土方の厳しさだと自負していた。

「しっかりしろ。朝の会議では、話さなきゃなんねえんだ」
「ああ…」
「…オレが」
「いや、オレが言う。ごめんなトシ」

 涙に濡れた顔で、それでも毅然と言う。
 
 この人に自分は惚れたのだ、だから命を投げ打つ覚悟など、出来ているのだと、土方は改めて思った。

「謝るな」

 撫でていた手に力を込めると、近藤も力強く頷く。

「これ以上、誰ひとり死なせやしねえ」














 土方は結局、その日銀時からの再三の着信に出ることは出来なかった。




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