過去拍手小説

□なんだかのどかな
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「土方さん、いまお茶淹れますから」
「ああ。…そうだ眼鏡、土産の中に煎茶と抹茶があるぞ」
「ぷっ。新八の奴とうとうトシちゃんにまでダメガネって呼ばれたアル」「こらチャイナ、オレはダメガネじゃなくて、そうだ眼鏡っつったんだ。なあダメガネ」
「土方さああん!!!?」



(ああ、いーなぁ…)

 万事屋の居間のソファひとつを陣取り、銀時は目の前の風景をしみじみと眺めた。

 向かいのソファには私服の土方が座り、その肩に後ろから抱きつくようにして神楽が寄りかかっている。
 台所の新八は土方の土産という名の食料供給にほくほく顔が丸出しだ。

(なんてゆーか…ファミリー?)


「はい土方さんお茶。煎茶にしましたけど」
「ああ。…お前らにはジュースのほうが良かったか」
「あ、いえお茶のほ」
「私新八と違って大人だから茶でいいネ」
「最後まで言わせてえええ!!!あ、銀さんにはいちご牛乳ありましたよ。よかったですね」

 新八がパックを置くと土方が二、三度銀時を見てから言う。

「なんか粒入った奴にした」

 高いほう、美味そうなほうを選んで来たのだというわけだ。

「わざわざ?ありがとー」

 おう、と照れた土方の顔にますますしみじみする銀時。

「銀ちゃんばっかりずるいアル!私の酢昆布もグレードアップしたいって叫んでるヨ!」
「酢昆布にあるのか、種類…。じゃあ今から駄菓子屋行って良いの探すか」
「ほんとカ!?」
「ああ」

 肩に神楽をしがみつかせたまま土方が立ち上がると、きゃっきゃと神楽が喜ぶ。

「定春!定春も行くヨ」
「昼寝してんなら寝かせてやれ。…じゃ、行って来るな、銀時」
「お〜。あ、やっぱオレも行く」
「仕事はいいのか?」
「んま、今日はお休みってことで。ほれ新八も行くぞ」
「あ、はい」

 揃って万事屋を出ると夏日だった気温も、昼を過ぎて幾分過ごしやすくなっている。

 駆け出した神楽と追いかける新八を後ろから見守りながら、銀時と土方が歩く。どちらともなく寄り添うようにして。

 ほどなくして着いたちいさな駄菓子屋の中ではすでに神楽が暴れるように酢昆布を買い漁り、新八が難しい顔で菓子を吟味していた。

 中に入ると狭そうなので、表に出ていたベンチに並んで座る。

「神楽ー、あんまはしゃぐんじゃねーの」
「トシちゃん!定春のお土産に酢昆布三箱買っても良いアルか!?」
「おう」

 店内の神楽に小銭を預けて土方がベンチに戻り座ると、銀時の頭が肩に乗った。

「土方くん神楽に甘くねえ?いっとくけど定春酢昆布食わねえよ?」
「…かわいいじゃねーか、チャイナ」
「母性の目覚め?」
「お前が目を覚ませ」

 ぺちんと銀時の頭を叩いた土方の手は、力が入っていないから痛くない。

「…こーしてっと家族みてーじゃね」
「家族サービスが駄菓子屋はどうなんだ?」
「じゃー次の休みは動物…いや神楽が暴走すんな。水族…いや神楽が食うな。…遊園地?」
「無理すんな、駄菓子屋でいーだろ」

 銀時の頭に土方のそれが乗って、互いの重みを支えあう。

「そだね」



 しばらくして両手に駄菓子の袋を下げた神楽と新八が笑顔で店から出て来て、神楽が土方の手を引いた。

「トシちゃんダメヨ!マダオが移るアル!」
「こら神楽。てめえ土方くんになんて事を!」
「馬鹿にされたのあんたですけどね」
「まったく勘弁して欲しいアル。あ、トシちゃん、これやるヨ」

 神楽がそう言って土方に渡したのは、小さなプラスチックの瓶と、太めのストロー。

「しゃぼんだま…?」

「そ。駄菓子屋のババアがくれたネ。トシちゃん、万事屋にいる時煙草我慢してるから、これ吸ってればいいアル」

「……さんきゅ。まあ吸ったら苦いだけだから吹くな」
「えええ!私の好意はどこに行くのヨ!はじけるのか?はじけてしまうのカ?」
「残念だが絶対吸わねえ」


 土方は煙草を控えていることに気づかれていたことに驚きながらもしゃぼんだまセットを受け取ると、じゃあ帰るかと腰をあげる。
 寄りかかっていた銀時がすこしつんのめった。


「帰ったらベランダでしゃぼんだまやるか」
「トシちゃん流石!男アルな!」
「いや吸わねえからなあ!!」
「じゃしかたねーから酢昆布一枚やるヨ」
「お、おう…」


 四人で酢昆布をしゃぶりながら、帰り道を行く。

 結局普通の酢昆布ばかり買い占めた神楽だったが、その顔は至極満足気で、銀時も土方も(眼鏡も)満足だった。











「なんで僕だけかっこで括られてるんすかあ!!!」





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