宝物小説

□そして始まる僕らの日々に
2ページ/13ページ

そして始まる僕らの日々に 〜北の紺碧


昼休み、ふと黒板の端に書かれている日付を見て、次の授業でおそらく自分があてられるだろうと気づいた。定年を間近に控えたじいさんのくせにやたらと発音のいい英語の教師は、反面生徒のあて方は日付と出席番号に基づいたごく古典的なやり方をする。

―やべぇ。

俺は慌てて食いかけのやきそばパンを隣に座っていた原田におしつけて椅子から立ち上がった。

「―どうした?」

マヨネーズが手にたれてあたふたしている原田と俺を見比べて伊東が呆れたような視線を向けてくる。

「次、あたる。…伊東お前訳やってねぇか?」
「―ああ。…すまないな、やってきてないよ」
「だよな」

原田には聞くだけ無駄なので俺は二人に背を向けて教室を横切り、窓際の自分の席まで戻った。
昼休みは残り二十分。なんとかいけるだろうか。カバンから教科書とノート、机の奥から辞書をひっぱり出して前回やった辺りの続きに目を通す。

人の家の夕食に招かれて『肉よりもどちらかというと魚が好きです』と堂々と言ってのけるメアリー。客であるはずのメアリーに部屋が暑いから窓を開けるよう食事中に頼む友人の父親。

英語の教科書の会話は内容を深く考えると疲れるので機械的に知らない単語を辞書で引き、訳をメモ程度にノートに書き付けていく。五行ほど進んだところでなんだかわからない構文にぶちあたって頭を抱えていると、土方ぁ、と間の抜けた声で名前を呼ばれた。
俺は顔を上げずに無言で教科書に視線を落とし続ける。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ