リクエスト小説

□勇者の父親になるにはとりあえずビアンカ嫁にしろ
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 古びた幌馬車のランプに灯された薄暗がりの中からは、密な人間の息遣いが漏れていた。二人分のその音に粘質な水音が混じってはひちゃりと鳴る。
 壁を背にして座りこんだ男、土方の黒い隊服は粘液で上から下までべっとりと濡れていた。それを気遣うようにして頬に飛んだ飛沫を拭ってやったもう一人の男は、銀髪に翠の目を持つ、白血球王。

「服のほうは拭ききれないな…」
「こんだけ全身にぶっかかってりゃあな。臭いがつかなきゃ良いが」

 上着を脱いだ土方は粘液ででろりとしたそれを床に置き、ワイシャツにまで入り込んだ粘液を気持ち悪げに払ってスカーフを緩めて溜め息を吐いた。

「まあ、何にしてもあんたが来てくれて助かった」
「気にするな」

 微笑んだ白血球王が土方の頬をやわらかく撫でると、触れたそばから赤みを帯びる。それを愛おしむように両手で包んだ。

「ん、だよ…もう何も着いてねえだろ」

 いつも開いた瞳孔が暗がりでさらにきゅうと広がり黒目とほぼ同大になって、そこに白血球王が映り込む。容姿は銀時とほとんど変わりないのに、ただ一つ違う目が土方を捉えた。ランプの揺らめきに合わせて色を変えながらも失われない煌めきが土方を映す。

 微かな力で上を向かされた土方は僅かに頬を強ばらせたが抵抗はしなかった。重なった唇の形すら同じなことに土方の胸が罪悪感ですこし鳴った。



















 土方と白血球王が一緒に居る理由。話は数時間前に遡る。

++++
 夏の盛りの暑い午後。湿気を含んだ重い空気を吸って盛大に吐き出してから、土方は再び言った。

「退け」

 しかし土方の肩を裏路地の壁に縫い止めている手から力が抜ける様子はない。刀に手を掛けてはいるものの、抜刀するには相手との距離が近すぎる。

「オレァ仕事中だ、万事屋」

 土方が苛立った声で言うと肩を押さえた手にますます力がこもった。

「夏期休暇は五日間で…それしかねえから、我慢しろっつったよなァ…?」
「っ、おい、肩痛…、」
「それが何だって?やっぱり休暇無し?連休無理?」
「だからそう言って」
「しかもそれを巡回中にさらっと、もうほんとどうでも良いっすけど一応言っときますわ〜みてーに伝えてくれちゃって」

 肩を掴んだ手ががんと後ろの壁を殴り、距離を無くした銀時と土方はほとんど鼻が触れ合いそうになる。睨む土方とは対照的に銀時の目はやる気なさげだが、土方にはその目が怒りを湛えていることがわかっていた。

「楽しみにしてたのは、オレだけってわけだ」
「…っ、オレだって、休めるもんなら、でも急な仕事で。…今日も、てめえに言いに来るために見廻り、変わって」

 互いの些細な息さえも交わる距離で土方が途切れがちに言って瞼を伏せると、銀時が土方の耳朶を噛んだ。

「…ふうん?」
「ちょ、」

 銀時は膝を土方の脚の間に割り入れると股間を擦りあげた。軽くさする程度の中で時折ぐっ、と力を込めると、土方が震えて息を吐く。
 自身を押し潰すように一際力を込めて擦ると、息を詰めた一瞬後に土方の拳が銀時の脇腹を抉った。

「っふっざけんなァ!この色情魔が!!!」
「ぐごふ…っ、あ、あれ…。何これ…すごく…痛い…」

 脇腹を抱えてうずくまった銀時の背に追い討ちをかけるように土方が踏む。

「オレはてめえみてえに毎日毎日サカって腰振ってりゃあ良いプーの猿とは違って仕事があんだよ!今日だって忙しいんだタコが!!」
「ちょ、痛い痛い!つーか猿のプーよりオレと熊のプーの住む国に行かないか」
「行くかボケゴラ人の話聞きやがれ!!忙しいんだよどっかのアホが導入しやがったパソコンにどっかのバカがウイルス送りこみやがったせいで!!!」
「ふ、副長…そろそろ…」

 ずんずんと銀時の背を思うさま踏みつけている土方を、路地の入り口から原田が覗く。それに振り返って肯くと、今まで大人しくしていた銀時が土方の足首を握った。

「うわ、な、危ねえだろ!放せ!」
「コンピューターウイルスのせいで…休暇取れねえの…?」
「だぁーらそう言って…」
「解決したらお泊まりできんの…?」
「するかしねえかはおいとくとして、日程的にはな」

 銀時を振り切ろうとする土方の脚になおしがみついたまま、銀時はにやりと笑った。

「ま…要は最強のセキュリティプログラムがありゃ良いんだろ?」
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