リクエスト小説

□勇者の父親になるにはとりあえずビアンカ嫁にしろ
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「白血球王のコピー、ですか」


 原田に事情を話して先に屯所へ返した後、銀時と土方は連れ立って万事屋へと向かった。しかし行き先は二階の万事屋ではなく一階のすなっくお登勢。住み込みで働く、機械家政婦たまのところだった。


「ああ、ちょいっとコピーして、こいつんとこのパソコンにぶち込んでやってくんねー?」

 たまは手にしていたモップを持ち直すと、銀時から土方に視線を移してから首を振る。

「白血球王は、書き換えを防ぐために外部からのシステム干渉ができないようプログラミングされています。何より私の体内セキュリティを優先して行動しますので、内部から直接コンタクトを取り、かつ、それが必要十分な重要性を持つと確認された場合はコピーが許可される場合もありますが」

 土方はたまと銀時の話す様子を眺めて、たまの言葉の意味を咀嚼する。

「…白血球王っつーのは、そんなに良いプログラムなのか?」
「私が獏に感染したとき、銀時さまと共に私を護ってくれたのが白血球王です」
「共に、護る…?」
「まー何にしても、たまん中入りゃあコピーできんだろ?」
「今回は私は仕事が始まりますのでお手伝いできませんが…」

 言いかけたたまを銀時はひらひらと手を振って制す。

「いーっていーって。ぱぱぱーっとオレと土方くんで行ってちょちょちょーっと終わらしてその後はしっぽりぶぼふ!」
「するかボケ。…まあ、コピーで済むならこっちもありがてェ。…なるべく外部からの協力は最小限に留めてえしな」

 土方がたまを見て言うと、たまも頷いた。

「ではなるべく白血球王の協力を仰ぎやすいよう、今までの経緯は伝えておきます。ただし、白血球王が必ずしもコピーを許可するわけではありませんので」

 土方はポケットに入れたままの手に嫌な感じがしていることから目を逸らした。握るとすこし汗ばんでいた。空気を強く握りしめてから正面に向き直ると、機械の無機質な緑の目が土方を見ていた。

 こうして何か盛り上がりに欠けたまま、たまクエストは再び始まったのだった。















 が、たまの口腔から出立した二人は早々と苦難の道程を強いられることとなった。


「信じらんねえ…」

 やっとそれだけ絞り出した土方は、またむっすり口を結んでじゃーばじゃーばとオイルの海をかき分けた。

「仕方ねーだろうちの椀はよく働いたよ」

 隣で同じく平泳ぎをしている銀時もうんざりとオイルをかいた。
 出発から僅かに数分。舟がわりに乗った椀の大破という不幸な事故に見まわれた二人はたまの体内を流れるオイルの中を泳いでいた。浮力の弱く体にまとわりつく重いオイルは酷く体力を消耗させる。

「ヒビ入った椀なんて使ってんじゃねえよ!買い替えろや!」
「んな金あったら食料買いますう。つーか昨日までちゃんと味噌汁を受け止めてたんだよあいつはよー…」
「でも沈んだじゃねえか」
「だよなあ…」

 オイルを掻き分け前へ進むが陸地はまだ見えない。うんざりと眉を寄せた土方は、その気分を抱えたまま銀時を横目で見た。やはり生気のない貌。

「…お前、何も話さねえよな」

 ぽつり出た呟きが恨みがましく響いて土方は後悔した。水音が消してはくれまいかとオイルを大袈裟に掻く。

「ん?」
「…いや、」
「たまが話してたアレ?」

 しっかり耳に届いていたことを喜ぶべきか判断しかねて、結局土方は舌打ちした。

「別に気にしちゃねえけど」
「えーなになに。オレのことは何でも知りたいみたいな乙女心?」
「知りたくねえよ、んなもん。知ったってどうしようもねえし」

 言ってから嘘だとわかっても土方は訂正しない。知ったところでどうしようもないのは本当だ。

「土方だって、言わねえだろ?オレに。…色々デリケートな仕事だっつうのはわかってっからさ、だから、うん、オレの場合は聞かれりゃ何でも話すよ」
「嘘吐け天パ」


 水泳には良い季節だというのに、まったく爽やかさのないまま陸地らしきものを目指してひたすら泳ぎ、そろそろ腕が疲労に痺れたあたりでようやく海岸線にも似た場所へ辿り着いた。

「ここ…あの機械の体んなかだよな…」

 砂浜に足を着けた土方がいっそ呆れて辺りを見渡す。海岸線沿いに目をやれば岩礁や、奥には南国風の木が林立する場所さえ見える。

「わかってねえな土方。体っつーのは未知なる世界、すなわち限りない可能性を秘めた小宇宙なんだよ。言うだろうが…オレのコスモよ燃え上がれ!」
「焼身自殺な。こいつの場合オイル流れてっから無理心中になりかねねえし」
「うるせーな言いたかっただけだよ聖闘士銀時になりたかっただけだよ」
「星矢に謝れ」
「あれ!?」
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