リクエスト小説

□勇者の父親になるにはとりあえずビアンカ嫁にしろ
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 顔で銀時を好きになったわけではない。あの目立つ容姿に惹かれなかったといえば嘘になるが、それだけで、男に抱かれようなどと思えるはずもない。

(でも)

 白血球王の優しさの塊のような態度が、嬉しくないわけもない。好きな人の、顔をして。

 土方は考えを振り払うようにワイシャツを脱ぐと、ズボンはそのまま、白タイツを手にしてしばし悩んだ。着たくはない。

(全身タイツは…嫌だ。え、てゆーかノーパンか…?うわ、万事屋好きそう…)

 白タイツを矯めつ眇めつ眺めてから、これを着るのはやはり無理だと結論づけると、土方は馬車の外にいるであろう白血球王を呼んだ。
 上半身に何も身につけていないとはいえそこは男同士。ズボンが脚に張り付く感覚も歩くたび靴ががぽがぽ言うのも気持ちが良くはないが白タイツを着ることを考えれば我慢できる。

「着替えは済んだ…うおお!?」
「いや、悪ィがこれはちっと」

 白タイツを申し訳なく思いながら差し出すと、白血球王は戦慄いた手で自らのマントを外して土方の肩にかけた。

「そん、そんな格好では風邪を引くぞ」

 土方が慣れない優しさに戸惑いながら俯いて礼を言うと白血球王も微笑む。

「…それで、コピーについてだが」
「あ、ああ。やってくれるか?」
「もちろん助けてやりたいとは思うし、いまは他の白血球たちも正常に機能しているから問題もない。但し、オレそのままをコピーしてしまうと、サーバーに負担がかかりすぎるから、オレのなかの必要なデータを抽出して保存、再構築するのが望ましい。そのためにはコンピューターウイルスについては確実な無菌状態の母体を媒体としてシステムを生産する必要がある」

 一息に言われた説明を違わず理解しながらも、土方は眉をひそめて首を捻った。

「…その、無菌の母体っつーのは、あるのか?」

 白血球は真顔で土方の手を取り握った。手袋ごしの感覚はどこか曖昧なようで、素肌よりも確かなようでもある。

「人間の体内は、通常コンピューターウイルスについては無菌だ」
「は…?」
「お前の中にオレのデータを入れることになる」

 それでもいいかと問いかけて来る瞳が意味あり気な色をしているのに土方はつうと寒気を催す。

「その…データの抽出方法って…」
「いわゆる、生殖行為だ」

 生殖行為といわれて土方が最初に思い出したのは魚の交尾だった。牝の産んだ卵に雄が精子を振り撒くという淡白な行為によって子孫を残して行くことを知識として知ったのは田舎でメダカを掬っていたころのことだ。それから意識は一気に飛んで何週間か前、ひょっとしたら一ヶ月は前になるのか、銀時との行為を思い出してしまい頬が熱くなる。つまり、そういうことなのかと。

「だ、だだだってデータってそういうもんなのか!?」
「たまさまのイメージによりシステム構築も変化するオレはそうだ」

 あのカラクリめ何てイメージ抱いてやがる、と土方が胸中で悪態を吐いて白血球王から目を離すと、白血球王は苦笑ともとれそうにかすかに笑った。

「やはり、あの男を愛しているのか」

 握られていた手をいつの間にか放されていたことにも気づかなかった土方は、そのとき初めて指を折り曲げた。握り返すように。

「…あ?」
「あいつも、銀時も、お前を愛している。なにせオレはあいつを元に作られたデータだからな。わかる」
「なっ、そん、」
「オレがお前をオレの待ち望んでいたひとだと思うのも、伝説以上にお前自身を愛しているからだ。だが、こんな気持ちがオレのなかから自然に湧き上がって来るわけはないんだ」

 白血球王の視線がランプの光源を避けて馬車の暗がりをさ迷って、土方から見れば陰影のついた横顔が浮き彫りになる。

「なにせオレは、あいつをもとに作られたデータだからな」

 自嘲ではない、もっと深い意味を含んだ笑みが白血球王の貌に浮かんだ。それが綺麗に儚くて思わず土方は白血球王の手を握った。

「…どうした」

 指と指を組むようにして手を握れども伝わらない体温がもどかしく、土方は白血球王の手袋を外して下へ投げ捨てた。落ちた布が乾いた音をたてるのも待たずに、白血球王の掌を握る。
 初めて知った体温は、土方の知る銀時のものより高い。手袋に被われていたせいかしっとりとした手肌の感触が幼い子供か少女のようで、知らず土方は力を込めた。

「……トオシロ…」
「んだよ」
「掌で直接何かに触れたのは、これがはじめてだ」

 されるがままだった白血球王の掌が土方の掌を握り込んだ。

「…お前で良かった」

 繋いだ掌が揺さぶる温度に高くなった。
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