短編小説

□あなたに夢はない
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 がつん、と鳴る。
 あえて回避をせずにその衝撃を甘受して、沖田の額はがんがんと痛んだ。
 しかし夜兎の本気であれば頭蓋が砕けていても不思議はないのだから、その程度ですんで安心した、とのんきに思う。

「バカにすんな。バカにしてるアルか」

 傘の先端の銃口が脳天を指して光っている。
 いっそ吹き飛ばしてくれ。
 空は青い。

「プライドの高ェ女はこれだから」
「ふざけんなヨおまえ。うんこ、インポ、インモラルが」

 神楽の声も、構えた銃口も微動だにしないのに、沖田は神楽が泣いているのがわかった。
 見なくてもわかった。
 そのくらい簡単だ。一緒にいるのだから。

「何が悪いアル、何をあきらめるネ。おまえまだなんもしてないし、されてないし、しようとしてないし、好きだと思う気持ち、それの何を怖がるアルか。おまえは、おまえだって、なんにも」

 ぶわあ、と神楽の目からあふれた涙が鼻水が顔を汚した。
 まっすぐな少女の姿だ。

「私銀ちゃん好きヨ。なんも怖くない。なんも怖くないネ。何が悪いアル」

 沖田は突きつけられた傘をやんわりと押し下げて、まっすぐに青く自分を見る神楽を見返した。
 こんなに少女は大人だったのかと思いながら、その年相応な泣き顔を見た。

(女は怖いねィ、懐になに隠しもってるか、わかりゃしねえ)

 うそぶいてから沖田は、頭を掻いた。

 当然神楽の胸の内くらい、わかっていたはずなのだから。

「おい、鼻水出てるぜ」
「女の鼻水にぴーぴー言うような了見の狭い男のところには嫁ぐなって銀ちゃん言ってたネ」
「オレはドSだからな。鼻水もテメェで管理してやりてぇと思うんでィ」

 隊服のスカーフを首から抜き取ると、ずびずびと流れた鼻水をふきとってやる。

「16んなったら、嫁に来るかィ」
「私ロリコンに興味ないヨ」
「あれぶん殴っていいかな神様」

 鼻水に濡れたスカーフを手に持って立ち上がると、あわせるように神楽もぴょこんとベンチから跳んだ。
 夜兎の名に恥じないその見事な跳躍を目で追うと、遠くかすんで、神楽の向こうに桜の色が見えた。

 二人の去ったあともベンチはまだしばらくはあたたかい。











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