短編

□JOKER様への送歌
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移動する船から、ふと水上バイクが走る抜けるのが見えた。


『あれは……』

その船に乗るのはクロスフォード・ナオ。彼は“聖魔の天神”と呼ばれる札付き者である。
そんなナオが捉えたのは、バイクが通り過ぎる一瞬に見えた白い文字。
黒い影だったためか、やけに目についたその文字をナオはぽつりと呟いた。


『“正義”…?』








【休日将校と聖魔の天神】









「おらァ!!お前ら、金目の物(モン)全部出しやがれ!!!」

「街中から集めろ!!」


ワァーワァー!!


『……はぁ。なんでこうなるかな』

ナオはため息をついた。
たった今降り立った島は海賊に襲われている真っ最中。乗って来た船はさっさと逃げてしまった。


「おい、こっちにもいたぞ!!」

『!』

ナオは声の方に目を向ける。どうやら見つかってしまったようだ。


「こいつ!!今来たみたいだぜ!!」

「馬鹿だなお前!!カモがわざわざネギ背負ってやってきたぜ!!」

『はぁ…』

どう見ても低級な海賊。相手をするのもはばかれる。否、めんどうだ。
手を出してきたら応戦することになるだろう。が、さっきのバイクが気になる。

ナオは海に目をやった。


『(“正義”ってことは…さっきのは十中八九海兵。ってことはここはまもなく包囲される可能性があるということに…)』

あれが伝令兵であればどこかに艦隊が潜んでいるだろうということになる。
一個艦隊なんてさらに面倒な相手とはやりたくない。
だけど…っとナオはさらに考える。海賊の声は耳に入らなくなっていた。


『(今のこの状況で最も厄介なのは、あの影が“伝令兵”ではないという場合だろうな)』

このグランドラインであんな水上バイクひとつで行動できる人物…大将までは行かなくても相当レベルの将校であることは間違いない。
将校は厄介な人間だ。さっさとここから出るに越したことはない。

ナオは海から視線を海賊達に移す。目の前の海賊達をどう撒くか…思慮を向けると海賊の声が耳に入る。


「おいおい、兄ちゃん。聞いてんのか??」

「ああ??ネェちゃんじゃねェのか??きれいな顔してるぜ」

「ハッハッハッ!!なんならおれ達と楽しむか?」

『……』

本当に不快だ。こんな奴らが、ルフィ達と同じ海賊を名乗っていると思うとヘドが出る。
何のために海賊をやっているのか。


『……ここから引いた方がいいぞ』

「「「ああん?」」」

『さっき海兵を見た。そろそろ艦隊をつれてくる頃だ』

「あ!!?お前、何ふざけたことを」

『ふざけるか。僕はこんなところで無駄な足止めを食らうのが嫌なだけ…』

『―――残念。無関係か』

「!」

「「「なんだ!!?」」」

ナオと海賊達は声のする方に目を向ける。しかし目の前には誰もいない。
首を傾げる海賊達をよそに、ナオは視線を上にあげた。


『…っ』



ズバァン…!!



まるで自然が猛威を振るったかのような風の太刀。ナオは自然に防御の体勢を取っていた。が、奇妙なことに傷一つない。
辺りを見渡すと、先程までナオに絡んでいた海賊達が一人残らず昏倒している。


『……困ったな。一番望まないパターンだ』

ナオは本音を呟いた。声の主は自分を巻き込まず、囲んでいた者だけを狙い撃ちした。“袖が擦れ合うくらい近くにいた人間を”だ。
声の主はそれをやってのける実力の人間だということ。そして彼以外海兵らしい気配を感じない。つまり伝令兵でない“単独兵”だ。


『ザコ海賊の討伐をしてたら、結構な大物を見つけた』

『……(若いな。エースくらいか…?)』

ナオは木の上から降りた海兵に少し幼さを感じた。海兵は地面に指をさす。


『確認するけど、この人達とは無関係だよね』

『…。ああ、もちろんだ』

容姿はともかく実力からみて将校であるのは間違いないが、なんというかとりあえず若い。
こんな若い将校は今まで聞いた限りでは一人しかいない。


『そう。じゃあ、“聖魔の天神”クロスフォード・ナオクン。キミみたいな大物がなんでここにいるの?』

『フッ。それを言うなら僕も気になるね。あの“ゼロ”のアルトがなぜここにいるのか』

『!へェ…知ってるんだ』

“ゼロ”のアルトこと、ノティ・アルトは海軍本部中将である。
そんなアルトは顔色一つ変えず、感心した声を上げた。ナオはそれにやや違和感を覚える。


『ああ…有名だ。“出逢ったら最期”だとね』

『うーん……それは人によると思う』

『へェ、正直だな』

『僕は超人ではないからね。そんな力があれば、今頃元帥だ』

『ハハッ!!確かに』

ナオは笑った。アルトは頭に手をおく。


『で、次は僕の質問に答えてくれるかい?』

『質問?』

『キミのような大物がなんでこんなグランドラインの入口にいるの?』

『?大物じゃないよ』

アルトはため息をついた。


『はぁ…。億越えは十分大物だよ』

『そうか。僕は今、弟を探してるんだ』

『弟?』

『そう。この海のどこかにいる弟を、な』

『……それが理由で“赤髪”海賊団を抜けたのかい?』

『!海軍の情報網はすごいな』

『まぁね』

アルトはそういうと後ろのポーチに手を入れる。ナオは突然の行動に一瞬構えるが…


『食べる?イチゴアイス味とプリン味しかないけど』

『は?』

アルトの手には2本のロリポップキャンディ。さすがのナオも目が点になる。
アルトはプリン味のキャンディーを口に入れると、イチゴアイス味の方をナオに差し出した。


『(選ばせてくれるわけではないんだな)』

ナオは苦笑して、キャンディを受け取る。


『毒はないよ。おいしくないし、一応今日は、キミを捕まえる指令はないから』

『?指令じゃないと捕まえないのか?』

『今日は休日なんだ。“起こっている事件以外は首をつっこむな”と上司から言われている』

『?』

『だから、起こっている事象は解決した。けど、キミはそれとは無関係だった』

『巻き込まれただけだから、ね』

『そういうこと』

『ん〜…』

ナオは少し戸惑った。その様子にアルトは首を傾げる。


『?どうしたの?』

『いや…なんていうか。海兵にこう面と向かって話すことってあまりないから』

『……ああ、そうか。確かにこう言うのはないか』

アルトはそういいながらキャンディを舐める。相変わらず表情は変わらない。


『海兵ってのは、海賊に対して好意を持っていないだろ?』

『まぁ、持っていないだろう。海兵の中には自国を海賊に襲われた人も多い』

『お前は違うのか?』

『アルトでいい。お前やら貴様やらで呼ばれるのはスキじゃない』

『…わかった。じゃあ、アルト。アルトは違うのか?』

アルトはキャンディを口から離すと、指先でもて遊びながら言った。


『わからない』

『は?』

思わぬ回答にナオはつい言葉をこぼしてしまった。
アルトはその反応を当然ととらえているのか、話を続けた。


『僕は自分がなぜ海兵になりたいのか、何をしたいのかわかっていない』

『わかっていない?』

『ああ、僕は“からっぽ”だから』

『??』

ナオは眉をしかめる。“からっぽ”の意味がいまいち推し量れない。
だが、アルトが一瞬見せた憂いた瞳は初めての表情の変化で、
アルトの中でその“からっぽ”というのが大きな意味を持つものだということは解った。


『一度はその意味がわかりかけたんだけど…』

『?解決しかけたのにダメになったのか』

『そういうことだ。だから僕は海兵だけじゃなく、いろんな人と話すことにしている』

『……』

『そうすれば、いつかわかるんじゃないかなって』

アルトの言葉にナオは息をついた。


『すごいな。若いのに』

『?』

『若い奴らはみんな苦労してんだな』

『……。キミも十分若いと思うけど。あと僕とキミと大して変わらないよ』

『え?20くらいじゃないのか?エースと同じくらいだと…』

『エース?ああ、“火拳”のエースね』

『?』

アルトは納得したような声を出した。そしてナオに目を向ける。


『彼は20なのか。僕は、23だ』

『!!?僕の一つ下か!!』

『そんなに驚くことかい?』

ナオの驚きの表情にアルトは呆れたような声を出した。



プルプルプルプル……



アルトの子電伝虫が鳴る。アルトは子電伝虫を取り出すと、指をさした。


『電話に出るから、静かにしてもらえると助かる』

ナオはうなずく。それを確認したアルトは電話を取った。


『ノティだ。なにか…』

[―――貴様!!いつまで待たせるつもりだ!!!]

『っ!?』

「!?」

キーンと機械音がなりそうな程大きな声が子電伝虫から発せられる。
アルトは片耳を押さえながら、子電伝虫を自分から少し離した。


『なんだ、オニグモクンか…。何か用かい?』

[用があるから電話をしている]

『……はぁ』

『(なんかあまり仲が良さそうな感じではないな)』

アルトとオニグモのやりとりを聞きながらナオはそう思った。
アルトは、キャンディをガリッと噛み砕くと、少し離した子電伝虫に問いかける。


『なら、用件を言ってくれ』

[フン。先程貴様から入電があった海賊討伐の件だが…]

『ああ、終わったよ』

[当たりめェだ!!一つの海賊くらい潰せんで中将を名乗る資格はねェ]

『…めんどくさいな』

ボソッとアルトが言う。ナオは素直な反応に笑った。


[何か言ったか?]

『いや。で、それが何なの?』

[チッ…。今、おれの隊が回収に向かってる]

『へェ、珍しい』

[うるせェ。もうすぐそちらに到着する。だから貴様はさっさと消えろ。近くにいられるのはめんどうだ]

『なんだ、そんなことか。じゃあ、頼んだ』

[ケッ…以上だ]


ガチャン…!!


『はぁ…。悪いね、見苦しいところを見せた』

アルトは子電伝虫をしまう。ナオは笑った。


『いや、海兵同士の会話がこんなだと思わなかったから、おもしろかったよ』

『まぁ、オニグンモクンは僕のことキライだからね』

『ハハッ。海兵も大変だな』

『かもね。―――さて、あまり話をしているとオニグモクンに怒られる』

『怒られる…か。僕はそうも行かないかな』

『ああ、そうだね。彼は仕事熱心だから。確実に事は起きるよ』

アルトはそういうと背を向けた。


『じゃあ、また会うことがあれば話をしよう』

『ああ。って、そうだ』

ナオは何か思い出したように、手をたたくと、アルトを引き留めた。


『なあ、アルト』

『?なんだい?』

『バイク乗せていってくれないか?船なくてさ』

『……』

『あ、やっぱり無理か?』

『……いや、ここにキミを残せば、オニグモクンがうるさいからな。最良を考えると…まぁ、いいや。隣の島まで送ろう』

『ありがとう!』

『海兵に送れだなんて、キミは変わった海賊だ』

『その頼みを聞く、アルトも十分変わった海兵だ』

『ああ、確かにね』

アルトはそういうとクスッと笑った。





FIN
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