短編

□また いつか
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―――1週間後。



部屋を訪れてみると、ルカはいなかった。今までこの部屋に入ってルカがいないことはなかった。


「珍しいことも、あるものだな」

ただ、今日に限って言うとルカがいないのはくまにとって好都合だった。


「確かあそこだな」

くまはルカの部屋に備え付けられた簡素なキッチンからティーセットを取り出した。ルカがいつもくまに出すティーカップもある。
くまはポケットに入れていた小さな缶を取り出す。軽く振るとしゃかしゃかと細かいものが揺れる音がした。

その缶を開け傾けると、ティーポットにバラバラと茶色く細い葉が落ちていく。それはくまが外の海域で得た紅茶の茶葉だ。
くまは茶葉をこれくらいか?と小首を傾げながら入れたあと、湯を注ぐ。


―――暴君、この茶葉は蒸らした方がおいしいんだよ


くまはそんなルカの言葉を思い出しながら、ポットのふたをしめ、少し蒸らす。 時間は確か…。



『暴君!?』

「!」

入口の方から驚きの声があがった。くまは振り返る。大きなドアの側にいるルカはいつもより小さく見えた。


「遅かったな」

『あ…うん。ちょっとね。――あ!』

「?」

『ケーキ忘れた』

ルカはまぬけな顔を見せる。くまは鼻で笑った。


「ケーキはいい。それより座れ」

『?…うん』

ルカは首を傾げながらも、席に着く。
くまは十分蒸らした紅茶をカップに注ぐ。香り立つ湯気、なかなかいい出来だ。


「ほら」

『!』

ルカはくまが差し出した紅茶に目を見張った。


『ぼ、暴君が入れたの…?』

「なんだ?おかしいのか」

『いや…そんなことないよ』

ルカは紅茶に愛おしそうに目を落とす。


「お前の紅茶に似たものにした」

くまはそう言うと紅茶を飲む。自分で言うのもなんだが、うまく淹れれたと思う。


『……』

「飲まないのか?」

『え!』

カップを眺めるばかりのルカにくまは尋ねた。怪しんでいるのか?と聞くとルカは首を大きく振った。


『違うよ、暴君が淹れてくれた紅茶だからなんだか飲むのがもったいなくて』

「…冷めたら殺すぞ」

『!はは。じゃあ、飲もうかな』

くまの冗談の脅しに、ルカはニコニコと笑い紅茶に口をつけた。
くまは、自分も紅茶に口をつけながら、ルカの反応を窺う。ルカの手が微かに震えた。


「ルカ?……――!!」

くまは目を見張る。ルカは目から涙が伝っていた。くまは少し、いや結構傷ついた。


「……そんなにまずかったの…」

『おいしい…!!!』

「!」

くまのことばを切ってルカは言った。涙はさらポロポロとルカの瞳からこぼれ落ちる。


『おいしい。すごくおいしい』

「……」

べた褒めされると少し照れてしまう。くまは照れを隠すため紅茶を飲んだ。



『僕、こんなおいしい紅茶初めて飲んだよ』

「…言い過ぎだ。お前の方が数倍うまい」

『そんなことない!!本当においしいよ。本当に…!!』

ルカは涙をぐいぐいと拭うととびきりの笑顔を見せた。










夕方。

『今日はありがとう、暴君。素敵なティータイムだった』

「ああ」

時間が来て帰ることになったくま。ルカはすでに涙はなく、いつも通り笑っていた。


『また淹れてくれる?』

「……気が向いたらな」

『ありがとう!気が向くのを楽しみに待ってるよ』

「ああ」


――そこで、おれ達は別れた。

おれは気分がよかったせいか、ドアを閉めた時からまた淹れてやろうという気になっていた。
次はどこの茶葉にしようか、あいつの知らない銘柄がいいか…そんな“暴君”らしからぬ考えを巡らしていた。




しかし、この時には確実に終わりが近づいていた。






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