短編

□優希さんへの送歌
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『ん……』

ゆっくりと目を開く。木の天井が見えた。
顔を横にすると白いベットと窓。窓の外には何やら男たちが騒いでいる。


「起きたのかよい?」

『?』

ドアの方から声がした。そちらへ向くとパイナップルのような頭をした男が、椅子に腰かけていた。


「パイナップルは余計だよい」

『あれ、声に出してた?』








【目を開ければそこは白ひげ海賊団だった】










『なぜ、僕を生かしているの?』

ベットから起き上がったアルトは少し目つきの悪い緑の瞳を目の前にいる男、白ひげ海賊団一番隊長マルコに向ける。
マルコは腕を組んだまま、めんどくさそうに言った。


「おやじの命令だよい」

『…白ひげの?』

「お前、自分がどんなことをしたか覚えているかよい?」

『?』


―――――――――

―――――――


それは半時前の出来事である。

単独で白ひげ海賊団を討伐しようとした、数名の将校達。
彼らから救援の連絡が入ったのは、アルトが艦隊を率いて帰路につく前であった。


『白ひげ海賊団と交戦?なんでそんなことになってるの?』

「はっ。数名の将校達が、居場所を掴んだようで」

『……この件はセンゴクサン達に連絡がいってるかい?』

「いえ…どうやら、手柄を立てるため独断で行ったようです」

『はぁ…』

アルトはロールの報告に頭を押さえた。


『僕ならば助けに来ると思ったのかな』

「そうかもしれません。ですが、これはあまりにも無謀で…」

『ああ、無謀だ。己への過信にも程がある』

「では…」

『……ロールクン。ビローアバイクの手配を』

「は?!」

アルトの言葉にロールは目を白黒させる。


『どんな無謀でも、仲間からの救援連絡だ。行かない訳にはいかない』

「しかし!!」

『…行くのは僕だけでいい。キミ達は白ひげに見つからない程度に離れておいてくれ』

「中将!!お待ちください!」

『ロールクン。今回は世界最強から何人もの人間を逃がさないといけない。なら、最良はわかるだろう』

「……中将が奇襲をかけ、場を混乱させる。そして“盾”を使い、将校達を逃がすと」

『正解だ。キミ達には、逃がした将校達の保護を頼みたい』

「中将はどうなさるのです??」

アルトは立ち上がると、板チョコの封を切り言った。


『とりあえず死なないように頑張るよ』









―――白ひげ海賊船前。


ぐわーーーー!!

ギャーーー!!


「オラオラどうした!!」

「さっきの意気込みはどこにいったんだァ??」


海兵の悲鳴がこだまする。3つの艦隊で臨んだ白ひげ討伐作戦は、海軍の圧倒的不利となっていた。
が――――



ドガァアアン!!!



「うわああ!!」

「ぐはぁぁ!!?」

「「「!!!?」」」

白ひげ海賊団の一角がまるで嵐にあったかのように吹き飛んだ。
突然のことに海兵も白ひげクルーも目を見開く。


『はぁ。だいぶやられてるな』

「!!あ、あれは!!」

「ノティ・アルト中将!!!」

「来てくださったのですか!!?」

海兵から歓声が上がる。突然の乱入に白ひげクルーに動揺が走った。


「ノティ・アルト?」

「まさか、“ゼロ”のアルト!?」

『ん……思ったより状況が悪いな』

アルトは状況把握に努めていると、海兵から声が飛んだ。


「中将!!やっちゃってください!!」

「おれ達で白ひげを倒しましょう!!!!」

『……』

その言葉にアルトは動きを止め、海兵に目を向けた。


『ふざけるな』

「「「え!!?」」」

アルトの言葉に海兵達は止まった。


『キミ達は自分達が何をしたか理解していない。この状況がどれだけ悪いものか…』

「「「!!?」」」

アルトはそういうと手を出した。


『“妨害行動(サボタージュ)”』

「「「!!!」」」

アルトは白ひげクルーと海兵の間にピースを組み立てる。そして海に向けて道を作った。


『けが人をつれて今すぐ撤退して』

「しかし…」

『アンタが死ぬのは勝手だ。だが、死を部下に押し付けるな!!』

「「「!!」」」

『アンタの今の最良は部下を一人でも多く連れ帰り、センゴクサンに状況を説明すること。それ以上はない!!』

「…中将……」

「かっこいいじゃないかよい!」

『!』

ヒュンッと風を切る音とともにアルトに青い炎を纏った蹴りが目の前をかすった。
アルトは距離を取る。


『キミは……“不死鳥”のマルコだね』

「“無血”の将校にこんなとこで出会えるとは思ってなかったよい」

『……まいったな』

アルトは呆然と立ち尽くしている海兵に目を向ける。


『本当に…世話がやける』

「?」

アルトはマルコに対して警戒を強めたまま、怒鳴った。


『早く行け!!僕はアンタ達を死なすために救援に来たんじゃない!!』

「「「!!!」」」

「退け!!撤退しろ!!」

「「「はっ!!」」」

アルトの一喝に海兵達がけが人を連れ、海の道を渡り始める。アルトは安心した。


「死なすために来たんじゃない、かよい。若いのになかなか言うじゃねェか」

『……部下を守るのが上司の務めだと聞いている』

「なるほどな。で、あれはお前の能力かよい?」

マルコはアルトの“盾”を指さす。アルトは口をつぐんだ。


『……』

「話す気はねェと」

『敵にみすみす話す気はない』

「へェ。それはまだ逃げれると踏んでいるってことかよい」

「白ひげ海賊団相手にいうじゃねェか」

『!』

アルトは後ろの気配に目を向ける。そこにはサーベルを抜いた四番隊隊長のサッチがいた。
生存の確率が下がるのを感じつつ、アルトは手の拳を握る。


『でも、可能性は0じゃない』

アルトはまるで自分に言い聞かせるように言うと、2人に対して構えを取った。






―――――


―――――――――


『あのあと…2人に思いっきりやられたような』

「何言ってんだよい。こっちだって大ケガだよい」

『?』

「仲間がいなくなった途端、暴れやがって。おかげで男前のおれの顔がぼこぼこじゃねェか」

『!』

いつの間にかサッチが部屋に入ってきていた。顔中に包帯を巻いている。


「サッチ。お前はいつも通りだよい」

「ああん!!?マルコ、言うじゃねェか!!いいよな、お前は勝手に治るから。おれはさっきエースに爆笑されたんだぞ」

「しらねェよい」

『……?』

「なんだ覚えてねェのか?お前、あのあとエースと一緒に帰ってきた親父にぶっ飛ばされたんだぜ」

『ああ、そう言えば…』

アルトは思い出した。
満身創痍で戦っていた刹那、背後からの威圧を感じた。そして振り返った途端、思い拳を受けたのだ。

『……』

アルトは手を頭におく。丁寧に巻かれた包帯の感触を感じた。


『よくわからない』

「「???」」

『なぜ、白ひげは僕を生かしたんだ?』

「……しらねェよい」

「おやじに直接聞いたらいい。連れてってやろうか?」

アルトはサッチの言葉に、少し考えてから頷いた。


『…ああ。頼む』














―――白ひげの部屋。


「一応、おれ達も同席させてもらうよい」

『ああ、好きにしてくれて構わない』

サッチとマルコに挟まれながら、アルトは白ひげの部屋を訪れていた。


「目を覚ましたのか」

「ああ、さっき目を覚ましたよい」

「おやじに質問があるらしいぜ」

「あん?なんだァ??」

『…なぜ、僕を生かしたの?』

「?そんなことを知りたかったのか??」

『わからないんだ。アンタが僕を生かす意味が。利用価値はないハズだろ?』

「…なぜそう思う?」

『アンタのことはセンゴクサンやガープサンから聞いている。僕を必要とする人ではない』

「?なんだ含んだ言い方じゃねェか」

『…。なぜかは知らないから、答えることはできない。ただ、僕に利用価値を見出す人間がいるのは確かだ』

「センゴクか?」

アルトは静かに首を横に振った。白ひげは頷く。


「……なるほど。もっと上の奴らか」

「「!!?」」

白ひげの言葉にマルコとサッチは目をアルトに向ける。アルトは白ひげを見上げた。


『だから、聞きたい。僕を生かした意味を。大したものでないとしても』

「……」

白ひげは自分を鋭く見上げる緑の瞳を、じっと見下ろした。



―――――

―――

「おやじ!船の方が騒がしいぜ」

「ああ、誰かが暴れてやがるな」

白ひげは、船の前で起こっている異変に、気づいていた。
走り出すエースを尻目に、歩調は変えずに船へ近づく。

争っているのは一人の男とマルコ、サッチのようだ。あの二人が手こずるとはそれなりにやる奴らしい。
白ひげはその程度の考えで、拳を振り上げた。



ドゴォン…!!




自身の殺気に気づき振り返った若い男をさっき振り上げた拳で殴った。
男はガードの暇もなく、吹き飛び、近くの崖に突っ込む。


「おい、何をやってんだお前達」

「おやじ!!」

「マルコ、何者だこいつはァ」

「こいつは“ゼロ”のアルト。将校だよい」

「……海兵が何の用だ?」

「それが…」

マルコは白ひげに状況の説明をする。
説明を聞いた白ひげは、崩れた崖の側で倒れているアルトを片手で軽々と持ち上げた。
思った以上に若い姿に目を細める。

グッと頭を締め付けると、痛みが走ったのか、緑の瞳が姿を見せた。


『…っ、ハァ…』

「目を開けた…」

「おやじの拳を受けてもまだ??こいつ何者だ?」

「勝てねェ喧嘩の助っ人とはァ、若ェ命を捨てたいようだな」

白ひげはアルトに言った。アルトは光が消えかけている目を白ひげに向ける。
そして、息も絶え絶えに言葉を紡いだ。


『…捨てる…ハァ…つもりは…ない』

「!」

『…仲間と、約束した。…生きて、帰ると…』

「!」

アルトはゆったりとした動作で左手をあげると、白ひげの腕をつかんだ。
グッと掴むその力は、死にかけにしては強く感じる。


『だから…死なない、死ぬ訳には、いかないんだ…』


――――

――――――



「海賊の施しが気に入らなかったって訳か?」

『…施し?』

白ひげの言葉にアルトは目を見張る。白ひげは酒を飲みながらめんどくさそうに言った。


「てめェが、死ぬ気がないから生かしてやったんだよ」

『!』

「小僧一匹の命くらい逃しても、おれ達にはどうってことはねェんだよ、アホンダラ」

『……そうか、よかった』

アルトは安心の息をついた。そして顔を上げる。


『ありがとう。白ひげ』

「フッ。海兵が海賊に礼をいうか…」

『感謝に海賊も海軍もないと思う。だから礼を言うんだ』

「「!」」

アルトの言葉に白ひげはニヤッと笑った。


「グララララ…!!面白ェ野郎じゃねェか」

『……』

「だがな、小僧」

『?』

「てめェに利用価値があるかないかだけで、周りの人間関係が形成されている訳じゃねェ。それは覚えておけ。でなけりゃ視野を狭めることなるぞ」

『……わかった、そうする』

「グラララ…おい、マルコ。こいつのバイクを返してやれ」

「え?いいのかよい??」

「これだけしゃべれりゃ、けが人じゃねェ。もうこの船に置く必要はねェよ」

「なんだ、おれはてっきり、こいつを仲間にするつもりだと思ってたぜ」

『!?』

手を頭の後ろに回して、話を聞いていたサッチが言った。


「グラララ…帰る場所がある奴に用はねェ」

『…帰る場所』

白ひげの言葉でアルトはふと自分の艦隊のことを思い出した。
自分が帰るべきところがあるのだと。


「センゴクサンに伝えろ。“次はてめェが直接来い”と」

『わかった、伝えるよ』

「その時はてめェも来い。ちゃんと相手ができるくらいになってな」

『!…ああ、そうさせてもらう』

「てめェなんざ、おやじが出るまでもなく、おれ達でぶっ潰してやるよい!」

「おうよ!」

『次は勝つ。もう、負ける気はない』

「グララララ…!!」

アルトの言葉に、白ひげは期待を込めて大きく笑った。





FIN
 

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