短編

□緋雷様への送歌
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「じゃあ、船番よろしく〜」

『はい、お任せを。皆さんは楽しんで来て下さいね』

ジンは街に出掛けるクルー達に手を振った。
見送った後、背筋を伸ばす。


『んっ……今日はいい天気ですね。まさしくお昼寝日和と言ったところでしょうか』

ジンはそういうと芝生に寝転んだ。
穏やかな気候に静かな船内、その心地好さにジンはゆっくりと目を閉じた。








「休憩すっか」

ガチャンッと何トンもあるバーベルを床に下ろすゾロ。
汗を拭き、キッチンで何か飲み物をこしらえてようと甲板に降りて来た。


「ジン……?」

『………』

ゾロの目の前には甲板の芝生に寝転がっているジンがいた。
仰向けで、顔の上にシルクハットを乗せ、両手を身体の上に置いて、静かに眠っている。


「(珍しくねェか?ジンがあんな風に寝るなんて)」

ジンはあまり眠らないとチョッパーから聞いた。
能力の使いすぎで起こるあの疲労以外は眠っていても眠りは浅く、すぐに起きてしまうと。


「……反応はねェか。いい天気だから寝てんのか?」

ゾロはとりあえず、キッチンで飲み物をこしらえてから、静かに甲板にやって来た。


『……』

「……」

ゾロはジンの寝る隣に静かに座る。ジンは相変わらず、規則正しい寝息を立てていた。


「……なんだ寝れるんじゃねェか」

ゾロは安心したように息をつき、ドリンクを飲んだ。

今日は本当に天気がいい。気候もよく昼寝にはもってこいだ。
ドリンクを飲んだゾロもジンに倣って芝生に寝転ぶ。
普段ならすぐにでも寝るであろうゾロの頭は、やたら冴えていた。


「寝れねェ……」

ゾロは不服そうな声を上げた後、隣にいるジンの様子を見た。
そして眠れない理由に気付く。


「……(そうか、こいつがこんなに無防備な姿を自分に晒してることが嬉しいのか)」

だからずっと見ていたくて、眠るどころじゃなくなっていたのだ。


「お前が寝れねェのは乗ってる船も安全じゃなかったからだよな」

ゾロは呟く。寝ているジンに届かないと思いながら。


「嘘くせェマジックで周りを笑わせて、戦う時も派手に暴れて……」

『……』

「側にいる奴らを操りたくないからって本心隠して、転々と渡り歩く。
――全部“約束”のためなんだよな」

ゾロは空に流れる雲に目を向けながら話す。


「おれも“約束”がある。あの空の先までおれの名を届かせる約束が」

『……』

「お前の“約束”は何かは知らねェ……。だが、お前は一人で背負い過ぎだ」

『……』

「おれはお前になら“背中”を預けられる。お前だって支えてやれる」

『……』

「……あ、そのつまりだな」

ゾロは言葉を詰まらせる。そこでフフッ…と笑い声が聞こえた。


「?」

『…剣士さんに背中を預けて頂けるとは、光栄です』

「うわ!!?」

ゾロは急に話し掛けられてびっくりして起き上がった。ジンはシルクハットを上げ、ゾロに笑顔を見せる。
ゾロは怒鳴った。


「ジン!!てめェいつから起きてやがった!!?」

『……“嘘くせェマジック…”辺りからでしょうか…』

「…おい、それほとんど最初からじゃねェか。起きてるなら言えよ!!」

『すいません、つい…』

ジンは笑う。ゾロはバツが悪そうに頭をかいた。


「……。いや、おれが悪ィな。お前が寝てるのを邪魔した」

『いえ。邪魔なんてとんでもない。それ以上に……』

「?」

ジンはふわりと微笑む。自分だけに向けられるゾロの声を聞きながら、ジンは不思議と安心感を感じたことを思い出す。
しかしここではあえて言わないことにした。


『フフ…何もありません。それより、ゾロさん、とても興味深いお話ですね』

「あん?」

『ぜひ…――先程の“続き”を教えて頂けませんか?』

「!」

ゾロは一気に顔が赤くなる。


「な、なんもねェよ!!」

『寝たフリをしたままお聞きしても良かったのですが、それではやはり勿体ないですよね』

ジンは確信犯的な笑みを見せる。ゾロはその笑顔を見ていられず、ごろんっと寝転んだ。


『ゾロさん?』

「うるせェ……!」

『…あらら』

ゾロは手で顔を覆う。自分でも自覚出来るくらいだからきっと顔は真っ赤だ。
隣で寝転んでいるジンにそれを悟られているのはわかっていた、それでも隠さない訳にはいかない。


「(くそっ…平常心が保てねェ)」

この感情が意味するものをゾロは知っている。もちろんジンも。
手をどけたらジンはきっといつもみたいに笑っているだろうな、とゾロは思う。
しかも、その笑顔を見たいと思う自分がいるのだ。


「(重傷だな……)」






【恋がこんなに照れ臭いとは】






『……。では、続きは僕から言ってもいいですか?』

「!」

『フフ…』

「(だからその笑顔反則だろ…)」


fin

⇒あとがき
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