短編

□HIRO様への送歌
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【七武海候補】


高い高い天井まで届く本棚がずらりと壁に整列している部屋。
本棚には隙間なく様々な書籍が陳列されていた。
部屋の天井は高いものの部屋の印象は薄暗い。
なぜかと言うとただでさえ最低限しかない窓全てにカーテンが引かれているからで、
この部屋の主人が、本を一番に考えていることがわかる作りになっていた。
そしてその主人、トキはその部屋で今日も本を読みふけってた。


コンコンコン


「?」

トキは読んでいた本から目を反らし、後ろを振り向く。カーテンの引かれた先には窓しかない。


コンコンコン


「なんだ?」

トキは不審に思い、本を閉じると音がするところのカーテンを引いた。
そしてその先にいるものを見て、トキは首を傾げた。


「……鳥?」

トキの目の前で白いハトがくちばしでコンコンと窓を叩く。まるで中に入れてくれと言うかのように。


「……。あ、今日か!!」

トキはその白いハトの行動に今日が約束の日だと思い出す。
急いで窓を開けた。

ガチャ…と窓を開けると白いハトは2・3歩足で歩き部屋に入って来る。
そして窓の縁から勢いよく部屋の真ん中に向かって羽ばたいた。


「ごめんね、すっかり忘れてたわ」

窓を閉めながらハトに謝るトキ。
他人が見れば少しおかしく映るこの状況だが、トキはさして気にしない。
なぜなら……


『いえ、お気になさらないで下さい』

羽ばたいたハトがそう話した。そして次の瞬間ハトは細かな紙になりながら、みるみる消える。
同時にピンクシルバーの髪にマジシャンの格好をした人物が姿を現わした。


『お久しぶりです。セルバンテス・トキさん。その節はお世話になりました』

「久しぶりだな、ジンくん。こちらこそ世話になったよ」

トキは柔らかい笑顔を見せた。
トキの目の前に現れた彼は、ちまたで“渡り鳥”と呼ばれる賞金首、クロスロード・ジンだ。
ジンはシルクハットをあげ、軽く会釈する。


「でもよく出来てるわ、相変わらず。“俺でも”本物か見分けがつかない」

『フフ…恐縮です。少々外が騒がしかったので、この様な形でのご訪問になりました』

シルクハットを胸にあて、深々とお辞儀するジンにトキはいやいやと手を振って答えた。


「最近海軍がうろついてるからなぁ。そんな中来てもらって、俺の方が申し訳ない」

『構いません。お約束でしたから。…さて、セルバンテス・トキさん。ご所望の品をお持ちしましたよ』

「本当!?あれ見つかったの??」

『ええ』

トキは嬉しそうな声を上げた。ジンは頷き、手を合わせる。
そしてその手を開くと風船が溢れ出した。


「!!?」

『せっかくなのでここでおひとつマジックを。…ご所望の本は2冊でしたね』

手から溢れた風船は地面に落ちず、プカプカ浮かぶ。その風船はまるでジンの意思を反映するかのように、ジンの手の動きに合わせて漂う。
ジンは楽団の指揮者のように手を動かしながら、風船を自分の周りに配置した。


『では、セルバンテス・トキさん。お2つ選んで頂いてよろしいですか?』

「えっと…じゃあ、そこの黄色とあっちの緑」

『かしこまりました』

ジンは指定された風船をトキの前に移動させる。ぷかぷかと浮かぶ風船は掌サイズだ。


『両手の掌をお出しください』

「は〜い」

トキは両手のてのひらを差し出す。ジンは風船をその上に浮かべた。


『では、ご確認下さい』

ジンはパチンッと指を鳴らす。するとジンの周りで浮いていた風船がパンパンッと割れ出した。


「!?」


パンパン!!


トキが一瞬風船が割れる音に呆気に取られていると、手元の風船も割れる。同時にずしっとした重たいものが手に乗った。


「うわっ…って、え!?」

トキの手の中には、本が2冊収まっている。さすがのトキも驚嘆した。


「久々に見たけど、やっぱりキミのはマジックの域を超えてるね。
こればっかりはマジックの本を見てもわからないなぁ」

『トキさんからそんなお言葉を頂けるなんて光栄です。お品をご確認頂けますか?』

「あ、うん」

トキは本を確認した。


「…ああ。確かに注文したやつだ。ありがとう」

『どういたしまして』

ジンはニコッと笑う。トキも笑みを返した。

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