短編

□HIRO様への送歌
3ページ/22ページ

「あ、時間があるならお茶入れようか?」

本を棚にしまったトキが尋ねる。するとジンは首を横に振った。


『残念ですが、もう立つ予定なのです』

「駆け足だな。海軍が来てるから?」

『……それもありますが、まだ用事がありまして』

「用事か…じゃあ引き止めれないなぁ」

『申し訳ありません。――ところでセルバンテス・トキさんはサー・クロコダイルをご存知ですよね?』

「ああ…“七武海”の」

『……?まだこちらに新聞は届いていませんか?』

「あ、新聞は今日の昼にくるけど…彼がどうかしたの?」

ジンはシルクハットをなおしながら言う。


『……先日、サー・クロコダイルが七武海の称号を“剥奪”されたそうです』

「!!なんで!?」

『とある国で重大な事件を起こしたと聞いています。そして今、政府は彼の後任を探していると』

「……ヘェ」

トキは少し曖昧に返答する。


『その後任候補に上がっている名をご存知ですか?』

「……誰だろ?海賊なんてたくさんいるからなぁ」

トキは首を傾げながら言う。ジンは少し間をおいてから言った。


『候補者は僕と“貴方”ですよ、セルバンテス・トキさん』

「キミと…俺!!?」

『はい』

「なんで?」

『セルバンテス・トキさん。貴方が選ばれるのは当然だと思われますが…』

「でも、候補にはキミも挙がってるんだろ?」

『はい、確かに。しかし…』

「しかし?」

『僕は“決して”政府には友好的ではありません。それはあちらも十分承知しています』

ジンの青い目の奥に一瞬怒りの色が見えた。トキはそれを静かに受け止める。


「……。キミの“それ”はなかなか根が深そうだね」

『!!……失礼しました』

ジンは気まずそうに目を反らした。トキはいつものトーンで言う。


「いやいや。キミの素顔をちょっと覗けた気がしたよ。
キミは歳の割にとても大人だと思ってたけど、今のは年相応に見えたな」

『……』

「じゃあ海軍がこの島にいるのは、俺を探してるって訳か」

『ええ…。そうだと思います』

「そうか…ならまずは情報収集しないと」

『――お受けになるのですか?』

「……ん〜。その時によるかな。まだなんとも言えない」

『……そうですね。では、僕はそろそろ』

「ああ」

ジンはトキに背を向ける。小さな窓をガラッと開けた。トキはその背中に声を掛ける。


「ジンくん」

『はい』

ジンはトキに呼ばれ振り返る。トキの目がまっすぐジンを見た。


「俺がもし“七武海”になったら、キミとはもう会えないのかな…?」

『……。いえ』

ジンは首を横に振る。


『僕から拒絶することはありません。ただ……』

「?」

『セルバンテス・トキさんが政府から僕の話を聞いて、どう思うか…それが少しばかり心配ですね』

「それは大丈夫さ」

『!?』

「俺はキミ自身を見てるんだ。政府がどう言おうが、俺が持っているキミへの印象は変わらない」

『そう言って頂けると嬉しいですね』

ジンはニコッと微笑み、お辞儀をする。


『それでは“また”』

「うん。“また”ね」

ジンはシルクハットを上げ、何か呟いた。ジンの身体は細かな紙になり、トキの部屋から姿を消した。






「俺が七武海ねェ…ないとは思うんだけど」

珍客が去った窓に向かってトキはそうため息まじりに呟く。そして静かに窓を閉めた。



fin

⇒あとがき
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ