朧月夜の舞
□朧月夜に優美な舞を...肆
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二十一章 要求の対価
紫色の大きな、瞳。
それは、あの子と全く同じもの。
「朧…ちゃん…っ!?」
「望美…っ」
目の前にいるのは、そのヒト本人だった。
源氏の平家戦略。
それは明らかに“あちら”の世界の人間が関わっていたと思っていた。
まさか、とは思っていたけれども。
春日望美。
「…そう。白龍の神子である貴女が、源氏の神子だったのね」
悲しげに微笑んで見せると、そっと太刀を引き抜いた。
源氏との闘いに、半端な覚悟で向かった覚えはない。
ここで源氏の神子を逃しては、意味がない。
いくら、その敵が顔見知りでも。
少しでも一緒にいた仲間でも。
朧は深く息を吸うと、真っ直ぐ前を見据えて叫んだ。
「私は平家の姫軍師、平朧! ここから先は絶対に通さない!!」
その声を聞いて、視線がこちらに注がれるのを感じる。
そして、その視線の中に見知ったものがあることも感じていた。
「朧…っ!?」
すぐ近くで将臣と太刀を交えていた九郎が、こちらを凝視している。
弁慶は特に驚くわけでもなく、こちらに向かってゆっくりと歩んできた。
「そうですか…。やはり、貴女が平家の…」
「ええ。貴方様こそ、源氏の軍師様だとは…思ってもいませんでした」
お互いがお互いを上手く偽り続けてきた軍師同士。
このように顔を合わせることになるとは、思わなかった。
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