朧月夜の舞
□朧月夜に優美な舞を...肆
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「何故…っ、朧! おまえは…っ」
九郎が将臣の太刀を振り切って、こちらに走ってくる。
それを逃すまいと、将臣は九郎の前に走り込む。
「九郎! てめぇの相手は俺だろ!?」
「将臣…っ」
それを見届けた朧は、弁慶と望美に視線を戻した。
「では、九郎殿が…源義経…」
意外と冷静に判断ができて、自分でも驚いた。
確かに、それなりにただの武士ではないと感じてはいたが、まさか源氏の総大将本人だったとは。
「悲しいものですね…。あんなに私を気遣ってくださったのに…、そんな私が貴殿の敵だったなんて…。」
朧が静かにうつむいた。
言葉に詰まった望美はどうしていいのかわからず、ただ立ち尽くすしかできなかった。
「平家の姫軍師! 覚悟!!」
先ほどの朧の声を聞いてか、源氏の兵が朧に太刀を振った。
とっさに望美の口が開いた。
「危な…っ」
この状況でそう口にしてしまうなんて。
望美はそう思ったものの、朧は素早く太刀でそれを受けるとすぐに振り払った。
「平家は和議を望むと先ほどから申しているのに…源氏はそれを解ってはくださらないのですね…っ」
そう呟きながら、望美に視線を移した。
「源氏の神子…。貴女も争いを求めるのなら、…私は容赦なく貴女に太刀を振るいます…!」
「朧ちゃん…っ」
朧は太刀を握り直すと、望美にその先を向けた。
「源氏の神子…っ、覚悟!!」
「っ…!!」
戦場の女人の影二つが、一つに重なった。
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