朧月夜の舞

□朧月夜に優美な舞を...弐
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八章 京再来



平家が福原へ都落ちを遂げてからもうすぐ一年が経とうとしていた。


あれから義仲の乱暴な素行に、漸く源頼朝が重い腰を上げた。

そして義経に義仲追撃の命を下した。


これが、かの有名な宇治川の戦いだ。



「ついに義仲軍が敗れたそうですね」



青年は前方から静かに渡殿を歩んできた女に言った。



「ええ。私も惟盛様からお聞きしました」



綺麗な漆黒の長い髪を垂らした彼女は、淡々とそう返した。


彼女は平家の末の姫、名前を平朧。

紫の瞳に、長い黒髪。


歳はとらないとはいえ、二年前よりも少し大人っぽくなった気がするのは気のせいではないだろう。


そんな二人がいるのは京の法住寺。

ある理由により再び京にやってきたのだ。


それは京の偵察及び、後白河院からの命令だった。



「まだ将臣殿が起きてきませんね」



朧に話しかけた経正は苦笑いしながら話題を変えると、朧が困ったような反応を示した。



「確かにそうですね。どうしたのでしょうか、将臣殿…」



彼、有川将臣は倶利伽羅合戦以来戦に出ることを許され、今となっては平家になくてはならない存在となっていた。

その戦ぶりに、源氏からは平重盛が黄泉から還った“還内府”として恐れられている。


そして朧は“姫軍師”として、先見の力と称した知識を生かして戦を支えてきた。

まだ源氏を倒すまでには至らないが、各々でそれなりの打撃を与えている。


朧は髪を揺らして将臣の部屋の方を見た。



「見てきますね」



そう残して、その場を後にした。





日の光が当たる心地よい渡殿を少し歩いて、やがて朧は将臣の部屋の前に立った。






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