朧月夜の舞

□朧月夜に優美な舞を...参
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十五章 戒めに残る彼女



朧と将臣が無事に合流し、全員揃って本宮を目指すことになった。

しかし熊野路で貴族に通行を妨げられた為、未だに本宮には辿り着いていない。


仕方なく引き返し、勝浦に着いてから三日が経とうとしていた。






「熊野川が増水して、今は本宮へ向かう道が通れないそうなんですよ。」



身動きが取れず痺れを切らしていた頃に、弁慶が外から持ってきた情報を皆に話した。



「オレはそんな話初耳だぜ。ホントか?」



熊野の出らしいヒノエが弁慶に疑いの眼差しを向ける。



「それにしても、ちょっと変だね。」



望美の言葉に、朧も重々しく頷いた。



「確かに、そんなに長い間氾濫しているのはおかしいと思います」

「なら、町に行って人に聞いてみようか」



景時がそう言って、立ち上がった。






   ***






外へ出てみると、あまりの人の多さで通りは混雑していた。

朧は密かに眉を寄せる。



「姫君。大丈夫かい?」



すかさず異変に気付いたヒノエに、朧は苦笑いした。



「本当、ヒノエ殿は観察力に優れていらっしゃるのですね」

「まぁね。よく言われるよ」



僅かに得意そうに笑い、ヒノエはそっと朧の手を握った。



「敦盛にだけこの御手を許すのは、戴けないね。」



擽るように指先を弄ばれたが朧は特に反応を示さずに、ヒノエを見上げる。



「敦盛殿は、お優しい方ですから。」

「随分信頼してるんだね…。妬けるんだけど。」



ヒノエはそう囁き、握った朧の手にそっと口付けた。



「ひ…ヒノエ殿…っ」



朧の声が淡々としたものから上ずったものに一変した。

その頬も赤く染まっている。






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