朧月夜の舞
□朧月夜に優美な舞を...伍
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二十七章 託された想い
すぐ目の前には源氏。
背後は切り立った崖。
(九尾…!!)
たった一度、信頼する妖狐の名を強く呼んだ。
突如、ぐんっと身体が何かに引き寄せられた。
「朧っ!!」
船の欄干に拳を打ち付け、将臣は叫んだ。
しかしその声が朧に届くことはなく、その姿は暗闇の為捉えることができなくなった。
「ヒノエ!! 船を戻せ!!」
「やってるって! でもこの風じゃあ戻せねぇんだよ!!」
将臣の怒鳴り声に船内にいるヒノエも反抗するように怒鳴り返した。
「朧を一人にさせたのが、そもそもの間違いでしたね…っ」
重衡が眉を寄せ、苦々しくそう呟いた。
その呟きが将臣にも届き、彼は崩れ落ちるように甲板に膝を付いた。
「っくそ、迂闊だった!」
全員が甲板から陸に目を凝らすが、朧の姿はまったく見えず。
風は更に強くなり、止む気配を見せない。
それによって船は沖へと流されていくばかりだ。
そんな中、ただ一人知盛だけが柱を背にゆるゆると座り込んでいた。
更に小さく欠伸を漏らすものだから、それに気付いた望美がかっと目を見開いた。
「知盛!! 朧ちゃんがこんな時に何してるのっ!?」
仕舞には泣きながら知盛に向かってそう叫ぶ。
しかし知盛は気だるげに望美を見返した。
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