朧月夜の舞

□朧月夜に優美な舞を...伍
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「源氏の神子殿は…ご存知ないようだな…」

「何の話!?」



今にも掴みかかってきそうな望美に、知盛はあくまでも思うがまま口を開く。



「朧が…あの狐のことを想って残ったとなれば…“あれ”が黙っているはずなど…ない、さ…」



知盛はそう言い残すと、瞳を閉じた。



「最低な男だな…っ。それでも朧の兄君か…!」



珍しく頭に血が上って限度を忘れた九郎が、苦々しくそう吐き出す。



「まったくです。…平知盛殿。あなたは何を思ってそうおっしゃるのか、主旨を聞いてみたいですね」



便乗した弁慶も鋭く知盛を見ながら口にする。

しかし知盛は怒りを示すわけでもなく、ただ黙ってそこに座っている。


いい加減構うのにも腹が立つのか、望美が再び陸に視線を向けた時だった。



「…九尾。随分と遅参が過ぎるぞ…。俺が咎め立てられた…」

「申し訳ございません。何しろ、相手はあの化け物ですから」



知盛の声が聞こえたと思ったら、その声に返答する誰のでもない声が聞こえてきた。

全員が一斉に振り向けば、そこには相変わらず座っている知盛と見慣れた青年が一人、朧を横抱きにして立っていた。



「九尾!? それに…朧!!」



将臣が声を上げると、気を失っていた様子の朧の眉が微かに動いた。



「う…っ」



唸り声を漏らし、その後朧は静かに目を開く。

その視界に入った九尾の顔に、朧は思わずその襟元を握った。



「九尾…!!」

「朧様、申し訳ございません。あの化け物に手間取ってしまいまして…」



九尾がゆっくりと朧を床に下ろすと、朧はすぐ様九尾を抱きしめた。



「馬鹿…っ、呼んだらちゃんと私のところに来て…!」



苦しげな主人の声音に、九尾の色素の薄い瞳が微かに揺れた。

その瞳に朧を映しながら、彼は小さく言った。






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