朧月夜の舞
□平家の章
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平家の章
源氏と平家の和議は成った。
枷は消え、あの悲惨で過酷だった戦は終わりを告げたのだ。
朧は数回瞬きをすると、ゆっくりと体を起こした。
その時、横から手が伸びてきたことに気付いてそちらに目を向ける。
「朧、大丈夫か?」
「将臣殿…」
差し出されたのは将臣の手で、朧はその手に自分の手を重ねると立ち上がった。
辺りは静かになっていた。
初めの時のように、何もない静寂が広がっている。
数枚の葉が散り、地面に落ちていくのを見つめて朧は口を開いた。
「荼吉尼天は…消えたんですね…」
「ああ…。終わったな…」
ゆっくりと息を吐き、朧は微笑んだ。
「源氏と平家が共に生きられる世が…できたのですね…っ」
そう言葉にすると、風に流れる髪を耳にかけて静かに舞殿を降りた。
***
「見事な舞じゃった、平家の朧姫。」
「ありがとうございます。」
後白河院の前で膝を付いて一礼した朧は、ゆっくりと頭を上げた。
その顔をまじまじと見つめた後白河院は、呟くように言った。
「美しいのう…。平家はよき娘を見つけたものじゃ…」
突然何を言い出すのかと、首を傾げる朧に後白河院は何とも嫌な笑みを見せ、顎に手を当てた。
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