スマブラ短編BL

□初恋の再来
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風が吹いた、

星が流れた、

振り向く先に、

思い出ひとつ。



麗らかな春の午後、アイクとマルスが初めて出会ったのは、そんな穏やかな陽気の中だった。

まだ10歳とは言え一国の王子であるマルスと、
傭兵団長の息子であり護衛と遊び相手を兼ねた役目を与えられたアイクは、住む世界が違う。

どちらも同じ年頃の遊び相手は初めてだったが、
お互いに目を見張り、格好や雰囲気の違いに内心で驚いていたものだ。

どちらかと言えば内向的なマルスは活発なアイクに振り回されて戸惑う事も多かったが、二人は次第に打ち解けて行く。

以前は人見知りで大人しかったのに今は明るく笑うマルスの様子に、
王族である彼に対しあっけらかんとした態度を取っていたアイクへの、
奇異や侮蔑、叱責の眼差しと言葉も、次第に無くなって行ったのだった。


「アイクの父上はとっても強いんだってね。ぼくの父上が、アイクの父上は頼りになるって、そう言ってたんだよ」

「ああ、おれのオヤジはすっげー強いんだ。おれもいつか、オヤジみたいになってやる!」

「ぼくも父上みたいな、りっぱな王様になりたいな」


将来の夢を語り合う少年達は、実に微笑ましい。
賢王と名高い国王と、そんな王に信頼を寄せられ雇われている傭兵団長。

二人の父親はお互いに立場は全く違うが、
確かな信頼関係がそこにはあるようだった。

アイクとマルスは、いつか自分達もそんな信頼関係を築ける大人になりたいと常々思っている。
折角仲良くなれたのに、大人になったらサヨナラ……なんて虚しすぎる。


「王様になったら今よりずっとあぶない事もあるだろうけど、おれが守ってやるから安心しろな」

「うん……ありがとうアイク、大きくなっても、ずっと一緒にいようね」


微笑ましい少年の友情。
誰もが二人の明るい将来を信じて疑わなかった。

当の少年達が、親密に、あまりに親密になってしまいさえしなければ。

この時はまだ誰も、当の少年達でさえ知り得なかった大きな歪みは、この時既に、生まれていたのかもしれなかった。



二人が出会ってから一年が過ぎようとしていた頃。
急にアイクの父が、王城を出ると言い出した。
アイクもマルスも納得がいかずに抗議するが、アイクの父は頑なで、発言を撤回したりしない。


「何なんだよ、オヤジのやつ……。何年も城にいることになるから途中で投げ出すなって、来る前にさんざん言ったくせに」

「アイク……行っちゃうの? 戻ってこないの?」


悲しげに俯いて呟き、瞳に涙を溜めるマルス。
そんなマルスにアイクは慌てて、大丈夫だから、すぐ戻るからと宥める。

折角同じ年頃の友人が出来たのに、このまま自然消滅なんてしたくない。
それは二人とも同じだ。


「な、泣くなよマルス。また絶対に戻るから、それまでケガとか病気とかするなよ」

「ほんと? ほんとに、また会える?」

「ああ。だって約束したじゃないか、おれはマルスを守るんだからな」


大好きな明るい笑顔で胸を叩いたアイクに、マルスも涙を拭い笑顔になる。
まだ子供だと言うのに、何故かアイクの言葉は頼り甲斐があって信じたくなる力強さがあった。

きっとまた会える、友情は変わらない、そんな想いがスッと胸に入り、染み渡る。


「わかった。ぼく、アイクのこと待ってるよ。楽しみにしてる」

「ああ、ぜったいにまた会おうな。約束だ!」


次に再会した時が、悲劇の始まりになるのだと。
そんな事は露ほども知らずに、アイクとマルスは手を握り合った。



++++++



アイクが王城を去ってから数年、齢16を数えるようになったマルスは今もアイクを待ち続けていた。

各地を転々と旅しながら仕事をしているらしく、
手紙などの連絡手段はなかなか出し難い。
今は何をしているのか、元気でいるのか、心配でならなかった。

それにアイクがどんな成長をしているのか、とても興味がある。
自分も剣術や乗馬などの鍛錬をやっているとは言え、傭兵家業の彼とは雲泥の差なのだろう。

彼の隣に立つに相応しい存在になりたい、支え合える関係になりたい、その思いは今でも強くあった。


「アイク、元気で居てくれたら嬉しいけど……。今なにしてるのかな」


まるで帰らぬ恋人を待つ科白のような己の呟きに、マルスは苦笑した。
寂しさと不安、それと同じだけの期待が胸に渦巻いていて、どうにも平常心ではいられない。

本当に彼に恋をしているようだと、いつかアイクと言葉を交わしたバルコニーから空を見上げ、ひとつ溜め息を吐くマルス。

会えない上に文面で思いを伝える事さえ出来ない現状は、ただ不安ばかりを大きく募らせる。
会いたい、でも会ったら何と言われるか、でも会いたい……ぐるぐると頭を回る思考は堂々巡りだった。


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