スマブラ短編BL

□所有
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どうすればいいだろう。
どうすれば、彼が僕のものになってくれるだろう。

……どうすれば、僕は彼のものになれるだろう。


「よーーっぽどヒマらしいなぁ、マルス」

「ロイ……」

「て・つ・だ・い・や・が・れ」


広間のソファーに座っていたマルスの頭を、ロイが通り過ぎざまに叩いた。
今ファイター全員で広間の掃除をしている所なのだが、
マルスはうっかりぼやっとしてしまっていた。

悪い、ボーっとしてて……と言いながらマルスは立ち上がるが、足に力が入らずヨロケてしまう。
ロイがすぐに支えた。


「……っ、悪い」

「はいはーい、病人1名様ごあんなーい」


ロイが間延びしたように声を上げると心配したメンバー達が駆け寄って来る。
マルスは慌てて、大丈夫、と言ったが、ロイが彼を病人と言った事で、
既に心配しているメンバーに言っても無駄だ。

しれっと離れて行くロイを軽く睨みながら、マルスは付き添われて部屋へ戻った。

いつもこうだ。
ロイには軽く流されてしまう。

自室に戻り付き添いに帰って貰った後、悔しくて溜め息をつくマルス。
彼は先程支えてくれた時に触れたロイの感触を思い出し、それに浸った。

マルスは1人、自室のベッドで上半身を起こし物思いに耽っている。
頭に浮かんで来るのは、ロイの事。

あの粗暴で乱雑とも言える力強さ、有り余る元気さは正直、うらやましい。
自分もあんな風になりたいとさえ思った事もある。
強い憧れは心を次々と制圧して行く。

“彼が欲しい”

そう思える程に。


「大丈夫かぁ病人」


突然、ノックも何も無しに勢い良く扉が開き、ダルそうにしたロイが入って来た。
驚いたマルスは、慌てて不機嫌を作り彼を睨む。


「ノックぐらいしろよ」

「気にすんな」


それを言うのはこっちのハズだし、そもそもそんなセリフを言うつもりは無い。
マルスは更に不機嫌になって、顔を背けた。


「んで、どこが悪いんだ?熱でもあったのか」

「だから大丈夫なんだよ。
ドクターには、一応安静にしてた方がいいって言われたけど」


じゃあやっぱり休んでろよ、と言いながらロイはマルスの頭を軽く小突くが、マルスはその手を振り払う。

ロイはやれやれ、と肩を竦めると、ベッドの脇に椅子を置き腰掛けた。
本を開いて読み始める。


「何だよ」

「病人の看護」


何が看護だ、ただ居るだけだろうと文句を言おうとしたマルスだったが、
ふと思う所があってやめておいた。

病気になると何故かいつもより強く孤独を感じるものだ。
誰かが傍に居るだけでそれは強い力となる。

……果たしてこの男がそこまで考えているのか疑問だが、一応、親切だと思って受け取る事にした。

時間が流れる。
お互い、頑ななまでに無言のまま。


「……おい」


長い静寂を破ったのは、ぶっきらぼうなロイの声。
大人しく横になっていたマルスは、何だよ……、と先程と変わらずあくまで不機嫌に言葉を返す。

ロイはマルスをちらりと見ただけですぐ本に視線を戻してしまう。
何だコイツ、と無視して目を瞑ったマルスの耳に、
ロイがぽつりと呟く声が届いた。


「早く良くなれよ」


……本当に、この男には調子を狂わされっぱなしだ。


「……まぁ、気分が悪いのは確かだからね」


マルスは感情を込めずに、静かに呟いた。
感情を込めると、妙な胸の高鳴りを知られてしまう気がして。

この調子に乗った、性格の悪い乱暴な赤髪のガキ。
どうにかして自分のものにしたくて堪らない。
……どうにかして、この男のものになりたくて堪らない。

別世界の住人だし、それぞれに守るべき国があるから無理な話だけれど。

嫌いだ。
マルスにとってこの赤髪のガキは、相当大嫌いなタイプの人種だ。
生意気だし乱暴だし、強引で身勝手で人の話なんか聞きやしない。

しかし時折見せる優しい一面や思慮深い一面に、つい引き込まれてしまう。
現にロイは、少々体調の悪いマルスのために、
わざわざ部屋までやって来て傍についているのだ。

どうにかして、この男を自分のものにしたい。
どうにかして、この男のものになりたい。
引き込まれるだけ引き込まれてみたい。

そんな叶わない願いを胸に積もらせ、マルスは両手でロイの片手を取り包み込むようにして強く握った。




-END-



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