スマブラ短編BL

□涼風
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「あ……暑い、泣きたいぐらいに暑い……」


ピーチ城の広間、元々暑さや寒さの変化に弱いマルスは、普段からは考えられない程にダレていた。
最近は食欲もなくこのままではバテる一方だろう。

どうやら冷房が壊れているらしいので、マルスはたまらず外へ出た。
木陰に座っても、今日はロクに風も吹いていない。
ピーチ城の周りは滝から流れて来る清冽な水のお堀で囲まれていて、
子供達が元気にはしゃぎながら水遊び中。

普段なら恥ずかしがってやらないのだが今日は余りの暑さの為に、
もう子供達に混ざろうかと考えた瞬間、遠くから高らかな馬の嘶きが響いた。

思わずそちらを見たマルスの目に飛び込んだのは駆けて来る馬、そして馬上の緑衣の青年だ。


「や、マルス。しっかりバテてるんだな」

「リンク先輩……からかわないで下さいよ、本当に辛いんですから」


愛馬のエポナに跨って、現れたるは時の勇者。
バテてすっかりだらけ切った後輩王子に、
しっかりしろよと檄を飛ばすリンクだが、マルスは既にグロッキー状態だ……。

リンク先輩は元気で羨ましいですー、なんて力無く微笑むマルスを見て、
こりゃダメだと思ったリンクはある事を考えついた。


「乗れよ、マルス」

「え?」

「エポナに乗れって」


暑さで頭がボーっとしているのだろう、
ハッキリ言われてもなお首を傾げて疑問符を浮かべるマルスを、リンクは無理矢理エポナに乗せた。

ようやく状況が分かって慌て始めるマルスをよそに、
リンクは手綱を操ってエポナを走らせる。


「せ、先輩っ! 何なんですか一体……!?」

「いつまでもだらけてちゃ体に悪いぞ。ちょっと涼みに行こう」


すぐにピーチ城を離れて森に入り、出来るだけ木陰を選んで走った。
じっとしていては感じられなかった風がマルスの体に心地よくぶつかる。
なんだか冷たさを感じる風にマルスは大満足だ。


「あー涼しい生き返る!」

「だろ。この森の奥にでっかい湖を見つけてな。そこから吹く風が涼しいんだよ」

「へぇ……そうなんですか」


ピーチ城に来て結構経つのに知らなかった。
様々な土地を冒険していたであろうリンクは、
新しい世界に来てもすぐに色んな場所を見つける。

マルスも旅はしていたが……それは戦争の為。
リンクのように土地を巡るといった雰囲気は無い。
彼も世界を救うために戦っていた手前不謹慎かもしれないが、少しリンクが羨ましくなってしまうのだった。

やがて辿り着いた湖は、清涼な空気と爽やかな風に包まれて心地いい空間となっていた。
バテてだらけていたマルスも背筋を伸ばし、ようやく調子が元に戻っている。


「リンク先輩、有難うございます。来て良かった!」

「お前がそんな風に喜んでくれるなら、来た甲斐があったよ」

「次に来る時は、他の皆も連れて来ましょう」


マルスの申し出に、リンクはちょっと迷った。
と言うのも、ここを自分とマルス2人だけの秘密の場所にしたかったから。

バテていたマルスを見、これは連れて来るいい口実になると思ったが……。
ね、先輩。と、笑顔のマルスのお願いに絆され結局頷いてしまう。

ちょっと残念だったが、嬉しそうなマルスを見られた事で、まいっか、なんて思えてしまった。
自分の単純さに苦笑しながら、リンクは水辺のマルスに歩み寄る。


「ほらマルス、折角だし、少し水浴びしよう」

「えっ……どうしようかな」

「いいからいいから、他に誰も居ないし。ほら、エポナも入れ!」


リンクがエポナを促して湖に入れ、自分もブーツを脱ぎ浅瀬に足をつける。
始めは躊躇っていたマルスも、気持ちよさそうなリンクを前にブーツを脱ぎ捨て湖に入るのだった。

ひんやりとした感触が更に、体に残っていた余分な熱を奪い去っていく。


「ほら、気持ちいいだろ。お前って遠慮しすぎな所があるからな」

「恥ずかしいだけです……」

「じゃあ訂正。お前って恥ずかしがり屋な所があるからな」

「先輩っ! い、言い直さないで下さいよっ!」


けらけら笑ってからかうリンクに、マルスは顔を赤くして怒る。
だがリンクは、そんなに怒るとまた暑くなるぞーと、からかうのをやめない。
痺れを切らしたマルスがリンクの方に駆け寄ろうとした瞬間……。


「わっ!」

「! マルス!」


水に足を取られたのか、マルスが転んでしまった。
まともに水に飛び込んでしまい、駆け寄ったリンクが助け上げると、もう全身がびしょ濡れだ。

突然の出来事に2人して呆けていたのだが、
やがてどちらからともなく笑いが起こり、それはすぐ2人分となって森へ山へと響いて行く。


「マルスお前、意外とドジなんだな」

「言わないで下さい、これでもちょっとは気にしてるんですから」

「もっと気にしろ!」


まだ笑顔のまま2人は楽しそうに言い合う。
やがてリンクが、今日は帰ろう、と言ってマルスを抱え上げてエポナに乗せ、自分もすぐ乗った。

そしてピーチ城を目指し手綱を操る。
次に来る時は他の連中も一緒。嫌な訳ではないのだが非常に残念だ。
だがマルスは、にっこりと笑ってリンクに告げた。


「リンク先輩、またいつか2人で来ましょうね」

「……ん?」

「今日は、あんまり居られませんでしたし」


マルスが何を言ったか分からずに暫し呆然としたリンクだったが……。
すぐに理解し、嬉しさに顔を綻ばせた。


「あぁ、またいつか、2人で来ような」

「はいっ!」


真夏には貴重な涼風を全身に浴びながら、
幸せな2人は森の中の帰路を進んだのだった。




*END*



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