スマブラ短編BL

□感触
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「待てマルス、髪の毛にゴミが付いてる」

「え?」


乱闘が終わった後、ふと見たマルスの頭に糸くずのようなゴミが付着しているのを見つけ、取ろうと手を伸ばすアイク。
その瞬間、彼の髪に触れた指がやけに心地いい感触を運んで来た。

ついゴミを取るのも忘れて髪の間に指を差し込み、手のひら全体で柔らかな感触を味わう。
さすがに何事かと思ったマルスが優雅な動作でアイクの手を払った。


「……ゴミが付いてるんじゃなかったのか?」

「悪い。すぐに取る。……しかしお前、髪がサラサラだな。上物の絹みたいに触り心地が良いぞ」

「それは、王族たるもの身だしなみは大事だからね」


国民や臣下に見すぼらしい姿を見せる訳にはいかない立場、そんな状況ではない今でも、癖というものはなかなか抜けない。
他にそんな事をする男が居ない為、時折女性達に交ざって髪や肌の手入れをする様は、自分でも滑稽だとマルスは思う。

そろそろそんな事を控えた方がいい年齢なのに自分は何をしているのかと、
周りの、いわゆる年相応な少年らしい者達を見て悩む事もしばしばだ。


「俺はこのままでもいいと思うがな。髪だけじゃなく肌は珠みたいだ。放置するのは勿体無い」

「……君の口からそんな言葉が出るなんて意外だね。
と言うかそんなに触らないで欲しいんだけどな」


アイクは先程から、マルスの髪だの頬だの腕だのを触ってその感触を味わっているようだった。
どうにも照れくさくて、やや顔を背けながら言うとアイクは素直にやめる。


「本心だ。それにお前、俺の髪や肌を触ってみろ。
比べものにならない程髪はゴワゴワだし肌は触り心地も良くない。こんな風になりたくないだろう」

「……」


手を取られ、言われるままにアイクの髪や肌へと触れてみるマルス。
ただ乱暴に水や湯で洗うだけの髪や日焼けを放置したような肌は、確かに触り心地も微妙でこうなりたくないと思わせる。

だがマルスは、それは別に悪くないと思えた。
なりたくはないが、男らしいアイクには似合う。
似合う似合わないで決めるのはおかしい事柄かもしれないが、確かに、それはアイクらしかった。


「僕はアイクはそれでいいんだと思うよ。きっとそれが君らしいから」

「そうか……なら俺も気持ちは同じだ、その絹みたいな髪や珠みたいな肌がお前らしいんだと思う」

「だから悩む必要なんか無いって言いたいの?」


アイクは見た目も男らしいから、この事で悩まずに済んでいるのだろう。
だがマルスは女に間違えられる容姿が些かコンプレックスで、絹みたいな髪とか珠みたいな肌とか言われても、女を彷彿とさせて余り喜べない。

ピーチやゼルダ、サムスのような美しい女性達に羨ましがられる事もある自分に泣けて来てしまう。
いっその事、アイクのように筋肉隆々な体だったら良かったのだろうか。


「アイク、一体どんな鍛え方をしたらそんなに筋肉が付くんだ? 僕も一応頑張ってはいるんだけど」

「こればっかりは体質みたいなもんだろう。と言うか正直、筋肉隆々なマルスは絶対に見たくない」

「あ、あっさり否定された……やっぱり駄目かな」


その人らしい、というのが本人にとってプラスになる事ばかりではない。
いくら今の髪や肌、容姿が自分らしいと言われても、微妙な気分だ。

まだ悩みを見せるマルスにアイクもどうにか励まそうとするが、如何せん良い言葉が見つからない。
ふと思い付いたのが、アイク本人は名案だと思った事柄なのだが……。

アイクは再びマルスの方へ手を延ばすと、頭と体に腕を回し、彼をすっぽり抱き込んでしまった。
逞しい腕や胸板が密着して恥ずかしくなってしまったマルスは、どうにかもがいて逃れようとする。


「ちょ、アイク! ここ外なのにこんな所で……!」

「やっぱり感触が良いな。抱き心地は良いに越した事は無いし、折角だからこのままで居てくれ」

「……は?」


その言葉の意味を考える。
そのまま言葉通りの意味かもしれないが、
抱き付いたままあちこちを触って来るアイクに別の意味を想像してしまった。

抱き心地とは、性的な意味の方ではないかと。
そもそも、そんなに肌に触れる必要など普段の生活である訳がない。
服を着ているのだから直接肌に触れる面積など大した事は無いのだし……。

だとしたら、肌に必要以上に触れるという事は服を着ていないという事で……。
それは、つまり。


「ア、アイクの馬鹿野郎、こんな所でそんな事を堂々と言うなんて!!」

「うおっ!?」


勢いのままアイクの頬を殴りつけ、顔を朱に染めたまま何やら叫びながら駆け戻って行くマルス。
それを呆然と見送り、殴られて痛む頬を押さえながらアイクはぽつり呟く。


「……中身はそれなりに男らしいじゃないか、マルス」


苦笑して、弁明の為にマルスの後を追った。




*END*



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