スマブラ短編BL

□夢が覚めた後も
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最近……いや、この世界に来てからずっとマルスは、夢が覚めた後の事を考え続けていた。

文化も歴史も何もかも違う様々な異世界からやって来たファイター達と過ごす、夢のような時間。
しかしマルスにとって、夢のような、ではなく、この世界はまさしく夢だ。

王族として守るべき物が余りに多すぎる現実。
愛すべき故郷やそこに住む人々を負担に思った事は無いし、彼らを守るのは自分としても非常に意義のある事だった。

それでもふと考える、この世界での生活の事。
もし自分が王子ではなく只の少年として生まれて来て、この世界の仲間達と出会えていたなら。
故郷の平和が数多の犠牲の上に成り立っている以上、そんな事を考える自体が罰当たりな事なのに。

一足早く、同じ王侯貴族の少年ロイがスマブラ界を去って行った。
病床の父君が容態を悪化させ、唯一の跡継ぎである彼の存在が必要不可欠になったらしい。
それを知ってからマルスは、自分もいつまでもこの世界に留まってはいられないと思うようになる。

そして、それと同時に彼の胸に浮かんで来るのは。
この世界に来て愛した一人の男の事だった。


「おーいマルス。明日の乱闘チーム戦らしいから、俺と一緒に組もう」

「リンク先輩。いいですよ、最近はチーム戦やってなかったし……」


勇者リンク。
この世界に来て惹かれ合い想いを成就させた人。
そして故郷の世界へ帰るその時に、永遠に離別しなければならない人。

マルスは愛するリンクと共に居ると、どうしようもなく幸せで、どうしようもなく辛くなる。
いつだって側に居たいのに、それが辛くて辛くてしょうがなかった。

リンクはそんなマルスの気持ちを知っていて、それでいて何も出来ない自分が歯痒くもあった。
故郷では勇者とは言え、マルスの世界では何の変哲も無い只の一般人。
世界の英雄王である彼をどうにかするなど出来よう筈も無い。


「……言っちゃいけないんだろうけどさ、お前を独り占め出来たらなあ」

「リンク先輩……」

「王として国々を治め、世継ぎを作って、
そんな責務を果たさなきゃならないお前とその周りに、俺が入り込む余地なんて微塵も無いんだよな」

「……」


その通りだった。
マルスの故郷の事などリンクは全く知らない。
過酷な戦争で苦楽を共にする事もしていない。

この世界では掛け替えない仲間でも、マルスの故郷では完全なる部外者だ。
故郷で世界の中心となっているマルスと、完全な部外者であるリンク……全くもって釣り合わない。

夢なのだ、このスマブラ界での出来事は全て。
目覚めれば消えてしまい、やがては記憶も曖昧になって薄れてしまう。

愛着の湧いた世界も、楽しい出来事も、掛け替えの無い仲間達も、愛する人も、全てが夢の産物。
儚く消え去ってしまう幻影に過ぎないもの達。


「なあマルス。俺や皆の事、せめて良い思い出ぐらいにはしてくれよ」

「思い出、ですか」

「そう。夢じゃなくて、思い出。それだったら少しは報われるからさ」

「……」


リンクの要求にマルスは、柔らかな笑顔で応えた。
リンクはそれをそのまま受け取ってしまい、安心して話題を終わらせる。
だがその時マルスの心にあったのは、表面上の笑顔とは真逆の感情だった。



++++++



翌日、約束通りにリンクとマルスはチームを組んで、様々なファイター達と乱闘を繰り広げていた。

余計な事を考えずに済むこの時間はマルス達にとって有り難いもの。
休憩や食事などを挟んでこの日20戦以上の乱闘をこなした後の試合。
ペアを変えようと誰かが提案したのか、入れ替わり立ち代わりに仮想空間である乱闘ステージ間でファイター達の移動が行われた。

リンクもマルスと離れ、ペアの相手はピーチ姫。
ピーチと数戦をこなしたリンクだが、マルスと離れてから昨日の会話が思い出されて落ち着かない。

守るべきものが余りに多すぎるマルスと、そんな彼の世界で部外者の自分。
離れ離れにならなければならない二人の事を普段より強く意識してしまい、どうにも落ち着かない。
そして休憩時間に入った時、それをピーチに見抜かれてしまった。


「ねえリンク、あなた一体どうしたの?」

「え……」

「何だか調子が悪そう。いつものあなたじゃないみたいよ」

「あ、はは……。見抜かれてましたか」

「一体どうしたの、私でよければ話して? ……あ、どうせならマルスの方がいいかしら」


冗談めかして言い、クスクス笑うピーチ。
リンクとマルスの仲はファイター公認で、からかわれる事も間々あった。

しかし今回の悩みはマルス本人との事なので冗談もあまり通じない。
苦笑しながら、たまには人の意見も聞くかと相談してみる事にする。


「マルスって、王子様な訳じゃないですか。故郷へ帰れば王様だ。
俺達がずっと今のままの関係で居るなんて不可能だって考えたら、辛くなって」

「えっ……」

「昨日、マルスとそんな話をしたから。俺も前々から考えてはいたんですが、
何と言うか、改めて意識しちゃうと……どうにもね」

「そう言えば……そうね、あなた達はそうだわ」


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