FE短編BL

□そして私は蚊帳の外
1ページ/1ページ


「セリス、一緒に乱闘行かないか?」

「あ……ヘクトル」


朝食を取っていたヘクトルは隣に座っているセリスに持ちかけた。
余りに自然な笑顔だったからその裏にある意図に気付かなくて、せリスは純粋に嬉しくなりながら応える。


「そうだね。最近行ってないからな」

「決まりだな。エリウッド、セリスも行くって言ってる。お前も来いよ」


彼の視線は、すぐにセリスとは反対方向の彼の隣に居たエリウッドに向けられる。

そうか、エリウッドを誘う為に私を誘ったのか。

普通なら、気にすることではない。
しかしヘクトルに片想い中のセリスにとっては、充分に傷付く言葉だった。

ヘクトルの視線は、いつも彼の隣に居るエリウッドに向けられている。
幼い頃、お互いの事を命を賭けて護るという約束を交わした彼ら。

そして、ヘクトルのあの視線といい行動といい……。
エリウッドの事を意識しているのは確実だ。
(それでもエリウッドは気付かないらしい)


「じゃ、セリス、10時に集合だ……協力してくれてサンキューな」

「……ああ」


セリスの胸中など知る由も無いヘクトルの言葉は、
深くセリスの胸に突き刺さった。



++++++



選択したステージは、広大な空と海を背景に、
疾走するF−ZEROマシンの上で戦うビッグブルー。

乱闘にやって来たのはセリス・ヘクトル・エリウッド・ロイだった。
セリスはロイとチームを組み、2人を相手に戦っていたが……。


「具合悪いのか?」


間合いを離している時にロイが話しかけて来た。
調子が悪そうにしてる、と気遣う彼に、
大丈夫だからと取り繕う。
自分は分かる程態度に出していただろうか。


「ヘクトルの奴がエリウッドを連れて来やすくする為に無理矢理誘ったんだろ?
なのに無理に付き合う必要なんてねぇよ」

「……」


そう。セリスはヘクトルに利用されたのだ。
当然ヘクトルには悪気なんて無いのだが。


「具合悪いなら……おっと、来やがった。
セリス、折角だしヘクトルをブチのめして行けよ」


笑いながらそう言い、ロイは2人に向かって行くとエリウッドに攻撃する。

ヘクトルに攻撃しろと言う事だ。
すぐに助けに行こうとしたヘクトルに、
こっちは大丈夫だとエリウッドが声をかける。

振り向くとセリスが構えていた。
ヘクトルがエリウッドを助けに背を向ければ、すぐ後ろから攻撃されるだろう。


「望むところだぜ!」


セリスに向かうヘクトル。

セリスはヘクトルと共に戦うより、敵対して戦う方が好きだった。
向かって来るヘクトルが真っ直ぐに自分だけを見ているから。

しかし、すぐにその時間は終わる。


「うわっ!?」


エリウッドがロイの攻撃で足場から落ちた。
このステージは疾走しているF−ZEROマシンマシンの上で戦うので、
落ちればコースに置いて行かれてアウトだ。

瞬時にヘクトルがエリウッドを助けに降りる。
助けられる訳がないのは彼も分かっている筈だが、殆ど無意識の行動に思えた。
セリスはそれに気付き、呆然と彼らを見送る。
そして丁度、時間がやって来た。



++++++



「やったぜー! ヘクトル、最後自滅しただろ?」

「つい体が動いたんだよ」


戦いはセリス達の勝利。
エリウッドの落下とヘクトルの自滅が効いたようだ。
勝ち誇ったように笑うロイに、ヘクトルも笑いながら明るく答えた。

そんなヘクトルにロイが、思い出したように抗議を試みる。


「つーかヘクトルさ、人を無理に誘うのやめろよ。セリス、少し具合悪そうだったぞ」

「そうだったのか? 悪ィ。無理させた」

「いや、大丈夫。ロイも、別に無理に誘われた訳じゃないから」

「そうか……?」


調子が悪かった原因を悟られる訳にはいかないので、話題を切り上げる。
その後は続々とやって来たメンバー達と乱闘し、1日を過ごした。



その夜。
食事などを済ませ皆で遊び回った後、それぞれ就寝に入っていた。
最後まで大広間に残っていたセリスも灯りを消し部屋へ戻る。

その途中、自分の部屋がある廊下の奥のバルコニーに人影がある事に気付いた。
2人……ヘクトルとエリウッド。何かを話している。

セリスは自室に入り、扉を少しだけ開けて話を聞いた。
盗み聞きなんて、という考えは、好きな人とその人の想い人との会話を前に無くなる。


「そう言えば今日のロイ達との戦い、君、最後に自滅しただろ?」

「いやな、あれはお前を助けようと……」

「無理に決まってるだろ。ルールなんだから」

「悪ィ」


笑いながら話す2人は、改めて仲が良いのだと認識する。
セリスは我慢できなくなって開いた扉の隙間から2人を見た。


「でも……」


エリウッドが突然言葉を詰まらせる。
言いにくい事でもあるのか俯いた。
ヘクトルも気になったらしく、少し心配げにする。


「何だ? どうする」

「君が僕を助けようと飛び込んで来たのが見えた時……凄く、嬉しかった」

「……」


それは、言い難い事なのだろうか。
なぜエリウッドはそれを言うのに言葉を詰まらせたのだろうか。

思い当たる節は自分にもある。
自分がエリウッドなら間違いなく言い難い。

意識しているから。


「じゃあ……僕はこれで! おやすみ!」

「エリウッド!」


走り去ろうとしたエリウッドを、ヘクトルが引き止める。


「な、何……っ!?」


ヘクトルがエリウッドを抱き寄せた。
しかしエリウッドはすぐにヘクトルを突き飛ばして走り去ってしまう。
セリスは慌てて、2人に気付かれぬよう扉を閉めた。

今のエリウッドの反応。
男友達に抱き寄せられ、突き飛ばすだけならまだ分かる。

走り去る必要は? 普通冗談だと思う筈だ。
笑って、何のつもりだよと話せばいい。
なのにエリウッドは……。

きっとエリウッドもヘクトルを意識している。
2人は想い合っているのだ。

小さい頃からの親友で、命を懸けてお互いを護る誓いを交わした2人。
自分の入り込む余地など初めから無かったのだ。

セリスは座り込み、扉に凭れ掛かって顔を伏せた。

後はもう、時間の問題だ。




-END-



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ