FE短編BL

□最後の反抗
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あなたは、
とても強い人でした。

大剣を手に戦場を行く勇姿は鬼神のようでもあり、
あなたの前にはどんな敵も立っていられなかった。

例えあなたが化け物のように恐れられても、僕はあなたから離れません。
いつも僕の傍に居て、共に戦って。
あなたのお手伝いが出来る事は、幸せでした。

僕が危ない時は、必ず助けに来て下さいましたね。
とても嬉しかったんです、本当に。
あなたと共に在る事が出来るのならば、それが戦場でも構わない。
護り護られて、共に果てても構わない。

……いえ、あなたが無事ならば、僕だけが果てても構いません。
あなたが負けるなんて、きっと有り得ない話でしょうが。

あなたは、
とても強い人でした。



あなたは、
とても逞しい人でした。

鋼のような肉体で、どんな重い武器も振り回して…。
その大きな体が、力強い腕が大好きで、
あなたに抱きしめてもらえる時間は幸せでした。

あなたは内面も逞しい人でしたね。
どんな逆境も臆する事なく突き進み、試練の壁も叩き崩してしまいました。
そんなあなただからこそ、沢山の人がついて来たのでしょう。

あなたはどんな場面にも負けず、全てを良い方向へ持って行きました。
そんなあなたと共に在る事が出来て、どんなに幸せだったか。

あなたは、
とても逞しい人でした。



そんなあなたの強さ、逞しさは、年を重ねても衰えを知らず、年老いてからも健在でした。

だから僕も寂しさを紛らわす事が出来たんです。
年老いても、あなたは何も変わっていない……。
衰えを知らないあなたの肉体と心は、僕をそんな風に安心させて下さいました。

……でも、年齢を重ねていくのを止める事など、不可能なんですよね。
僕は、認めたくなかったのかもしれません。
あなただけがどんどん年老いていくのを見るのはとても辛くて。

どんなに願っても僕は、あなたと同じ時間を過ごす事など不可能なのに。



あなたは、
とても愛しい人でした。

あなたの事が好きで、好きで、愛しくて……、
あなたさえ居て下されば、僕は他に何も望みません。

あなたも、僕を愛して下さいました。
何度も何度も抱きしめて、その温もりを僕に分けて下さいました。
あなたと共に在る、愛し合う時間は、頭も身体もどうにかなってしまいそうで、本当に至福でした。

これ以上の幸せなんて、僕には無いんです。そんなもの絶対に有り得ません。
だから、全てをあなたと共にしたい。
……そんな叶わない願いを、ずっと抱いていました。

あなたは、
とても愛しい人でした。



年老いても衰えを知らなかったあなた。
でもさすがに、死期が近付くと穏やかになって……、
弱っていきましたね。

僕は、そんなあなたを見るのが寂しくてよく泣いていましたが、あなたはいつも、そんな僕の涙をそっと拭って微笑みました。


「泣くな」


……そう、言って。

死期が近付き、あなたは日に日に弱っていきました。
静かに佇むようになり、僕を常に傍に置いて、
ただ……じっと、この世の全てに想いを馳せているようでした。
あれが、今まで生きてきた、この世界との別れだったのでしょうか。


「……セネリオ」

「はい」

「お前は、幸せだったか?」

「はい……」

「そうか……」


……ご自分の死期を、悟ってらしたんですね。
あなたはそれきり黙って、また静かに佇んでいました。
でもまたゆっくりと口を開くと、僕にとても幸せな言葉を下さいました。


「俺も、幸せだった。何より……お前と出会えて、お前と共に在る事が出来て」

「……」


……嬉しかったです。
本当に、心の底から。


「僕も……っ、僕が幸せだったのは、あなたが居て下さったからです!
だから……アイク……」


どうか僕を置いて行かないで下さい。

あなたと共に逝かせて下さい。

あなたのいない世界など、もはや何の意味も無い。


でも……あなたが、
僕に“下した”遺言は、
僕にとって、何よりも残酷なものでした。


「セネリオ、お前は……、俺が死んでも生きてくれ」

「えっ……」


鼓動が速まり、息をするのも苦しくなって。
でも、この程度では死ねるわけなんかない。


「どうして……そんなことを言うんですか?」

「……お前には生きてて欲しいんだ。この世界でお前が生きている。それだけで俺は、安心出来る」

「……!」


……それがあなたの望みならば、叶えて差し上げるのが僕の存在意義、喜び。
でも、僕は……。


「……いや……です……」

「……セネリオ」

「いやです、アイク! 僕を独りにしないで下さい!」


耐えられる訳がない。
あなたが存在しない世界で生きるなんて。

泣き出してしまった僕を、あなたは優しく抱きしめて下さいました。
でも、言う事は変わらず。


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