FE短編BL

□幸せな罰
1ページ/3ページ


執務が終わり自室へ戻ったエフラムは、寛ぐのもそこそこに部屋の奥にある大きな本棚へ向かった。
本を決まった順に並べると鈍い音と共に本棚が横に動き、通路が現れる。
隠し部屋へと続く隠し通路だ。

正直、この仕掛けに気付いた時エフラムは驚いた。
数年前に父が留守の際、イタズラ心を起こして父の部屋に忍び込み、まさしく偶然この仕掛けを見つける。

通路の奧には更に階段、その先には部屋があったが、
中には誰も居らず埃が積もっていた。
つまり長年使っておらず、この隠し部屋を作ったのは父ではないと思われる。

内部には古い家具が生活に必要な分だけ揃っていて、
おそらく何代か前のルネス王が誰かを隠す為に造ったのだろう。

大陸全土を巻き込んだ戦争が終結した後、エフラムは自室を、この隠し通路がある父の部屋へ移した。
それは……当然、この先にある隠し部屋を使う為で。

ひんやりする石造りの暗い通路と階段を進んだ先。
厳重に掛けた鍵を開けて扉を開き、エフラムは中に居る人物へ声を掛けた。


「気分はどうだ? リオン」


それは、

先の戦争の大戦犯。


「エフラム……。うん、大丈夫だよ」

「そうか。執務が終わったから来てみたんだが」


言いながらエフラムは部屋へ入って鍵を閉め、
ソファーに座って本を読んでいたリオンへ歩み寄る。

テーブルを挟んだ向かいのソファーに座ったエフラムに笑顔を送ってから、
特に彼が用事があって来た訳ではないと分かっているリオンは、すぐ本に視線を戻した。

綺麗に掃除され、新しく配置された調度品に囲まれた部屋。
窓のない密室で、自由に出入り出来ないという事を除けば快適な部屋だ。

先の戦争で敗戦国となった国の皇子リオン……。
魔王にその体を乗っ取られた彼を倒し、彼の体を使い復活した魔王も倒した。
そして国へ戻り復興も一段落ついた頃、
ポカラの里で暮らしていたミルラがやって来たのだ。

闇の樹海が騒がしいと、穏やかではない相談を持って。

国をエイリークに任せ、少数の騎士と共に闇の樹海へやって来たエフラムは、
調査しているうち信じられない人物と再会した。

それが、リオン。
どんな理由があったにせよ、リオンは戦争を起こした張本人で、大戦犯だ。
慌てて周りに居た騎士たちに気付かれぬよう彼らを下がらせ、2人になってから声を掛けてみた。

リオンもエフラムに気付き、驚いてバツの悪そうな顔をしている。


「リオン……? リオンだろ、俺が分かるか?」

「……」


すぐに顔を背けて立ち去ろうとするリオンだが、
エフラムは慌てて彼の腕を掴み引き止めた。
それでも顔は背けられたままで、こちらを見ようともしてくれない。


「俺だ、エフラムだ。忘れてしまったのか?」

「……忘れるわけ、ない。エフラムの事を……」


俯いたまま、呟くように発せられた言葉。
それに嬉しくなったエフラムは、思い切りリオンを抱きしめた。

もう死んだ、自分が手を下したと思っていた親友……、いや、想い人が生きていたのだ。
エフラムのストレートな喜びの表現に、リオンは驚いて叫びそうになる。
それを何とか堪え、焦って話し掛けてみた。


「エフラム、どうして此処に居るの?」

「こっちの台詞だ」


至極当然の言葉だ。
しかしリオンも、自分が生きている理由が分からない。


「分からない……。どうして僕は生きてるんだろう。
あんな事をしてしまった僕が、どうして」

「あぁ、リオン。そんなに小難しく考えるな。
お前が生きていた、俺はその事実だけで充分さ」

「……」


エフラムが笑ってそう言ってくれると、リオンも心穏やかになれた。
悩みや苦しみを取り除いてくれるような笑顔が、リオンは大好きだ。

しかし、リオンには何が何でも気になる事がある。
これを聞かねば……真の安心など有り得ない。


「エフラム、グラドは…。地震が起きたよね、国民は大丈夫なの……!?」

「……地震は、起きた。被害は甚大だったが、
各国の支援があったからな、今は復興している」

「……」


力が抜けて、リオンは地面にへたり込んだ。
やはり災害は起きてしまったのだ。
もう復興していると聞き、敗戦国へ支援してくれた各国に心から感謝した。


「ありがとう……本当に……ありがとうっ……!」

「泣くな、リオン。大丈夫だから」


しゃがんでリオンを慰め、エフラムは優しく微笑む。
リオンの大好きな、安心できる笑顔で。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ