FE短編BL
□ある冬の日
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何日か降り続けていた雪が止んだ。
フェレは温暖な為かあまり雪は積もらないが、
オスティアはそうもいかなかったようだ。
深く雪が積もった山道を愛馬で行くが、なかなか先へ進めない。
２ヶ月に１度の手合わせをする約束。
数週間前、偶然にも父がオスティアへ届け物があり、丁度いいとエリウッドは使いを申し出た｡
幸いフェレを出る頃には降り続いていた雪も止み、彼は愛馬と共にオスティアを目指す｡
……そろそろオスティアは近い筈なのに、慣れない雪のせいでどうにも遅い｡
「ヘクトル、心配してるだろうな……」
数週間前にオスティアへ行く事が決まった時既に、彼へは手紙を出していた｡
今日に着く事は分かっていただろうし、
意外にも心配性な彼が暴れ出していないか心配だ｡
しかし、本当に寒い。
防寒はちゃんとしているものの、手綱を握る手は赤く染まり、身を切るような冷たさが駆け抜けて行く｡
とにかく早くオスティアに着こうと、エリウッドは馬の速度を速めた｡
やがて山道も下り坂に差し掛かり、知らず、少し慌て気味に馬を歩かせた｡
すぐに大した高さではなくなり、視界に小さくオスティアの都が目に入る｡
「ふぅ……。やっと着いた」
街が見えた事に安心したのか、エリウッドは気を抜いて注意を逸らしてしまう｡
この下り坂は左側が崖になっているのだが、下の方から生えている木に雪が積もり、道と崖の境目がよく分からなくなっていた｡
……突然、エリウッドの体が思いっ切り傾ぐ｡
体に変な重力が掛かり、自分が落下しているのだと気付いた頃には、崖下へと転落していた｡
積もった雪がクッションの代わりを果たしてくれたようだが、それでも凄い衝撃が体にかかり、
エリウッドは呻き声を上げて体を震わせる｡
冷たい雪に倒れ込んでしまい、切れる程の冷たさが全身に襲い掛かって来た｡
しかし痛む体は一向に言う事を聞かず、いつまでも冷たい雪に体を預ける羽目になってしまう｡
ようやく立ち上がる事が出来たエリウッドが、愛馬はどうしたのかと辺りを見回すと……。
「あ……！」
愛馬は、落ちる時に崖の岩肌に体を叩き付けてしまったのか、真っ赤な血を流して倒れていた｡
動く気配は全く無く、純白の雪を赤く染める色、
そして有り得ない方向に曲がった足や首｡
まさか、もう生きているとは思えなかった｡
「……すま……ない」
完全な自分の不注意だ｡
それで絶命してしまった愛馬に申し訳無さを感じ､
エリウッドは愛馬の前に膝を折って、静かに謝罪と祈りを捧げた｡
そしてオスティアの都を目指して足を進める｡
遠くに、だが、確かに街は見えていた｡
エリウッドは、行くしかない、と積もった雪の上を歩き始める｡
雪に倒れた時の冷たさが体に残っていて、相変わらずの低い気温、落下時の痛みと相まって体力を奪っていく｡
全身を駆け巡る痛みと冷たさに耐えながら、エリウッドは一歩一歩足を進めて行った｡
やがてざわめきが耳へ届き、オスティアの都へ近付いた事に気付くエリウッド｡
ホッとした彼は力を振り絞って足を進めるが、突然ガクリと膝から力が抜け、再び冷たい雪に倒れ込んでしまう。
体を起こそうとしても言う事を聞いてくれず、
寒さが体力を奪い尽くすように襲って来る｡
崖から転落した時の痛みは既に小さくなっているのに、予想外に体力を失っていたようだ。
いくら力を入れて体を起こそうとしても出来ない｡
寒い。
寒い。
寒い。
痛みよりも疲れよりも、今エリウッドを蝕んでいるのは身を切るような寒さ｡
やがて力尽きて、雪の上に全体を預けてしまう。
まさか、こんな所で死ぬ訳にいかないのに……。
「(……ヘクトル)」
寒さと冷たさに震えながら浮かぶのは複数の意味で大切な人。
もうすぐ会えるのに、こんな事になるなんて……。
段々と気が遠くなり、目を開けているのも辛くなる。
いけないとは分かっているのに体が言う事を聞かず、ついに目を閉じて意識を沈めてしまう｡
意識が消える瞬間、何か聞こえた気がしたが……。
もう、エリウッドには分からなかった。