虹色譚詩
□かごめかごめ
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はぁはぁ、と息が上がるのも構わず体全体を使って走る。
いや、走るという言葉には少し語弊があるかもしれない。
ただ走っている訳ではなく、逃げているのだから。
少し前まではその目は自分を慈しみ、慈愛に満ちていたと言うのに。
其れが今ではどうだ。
まるで自分はその辺に転がっている石だと言わんばかりに存在を無視し、思わず目が合ってしまえばこれでもかと眉間に皺を寄せその目は恐怖に染まる。
こんなときばかりは歳不相応な利発な頭が嫌になる。
口に出して言わなくとも目が語るのだ。
『化け物』、と。
堪らずその場を逃げるように走り出し、何もかも聞きたくないと拒む様に両の手で耳を塞ぐ。
回りから、その人から期待されていたぶん衝撃は大きくて、このまま走り続け世界の果てまで行ければどんなに良いかと願ってしまう。
だが実際、現実はそんなに甘くはなく小さな体は疲れを訴え、当然の様に何も履いていない足は砂利などで沢山の小さな傷を作ってゆく。
もう駄目だ走れない、と力を抜いた所で足元をおろそかにしていた為か木の根に足をぶつけそのまま転倒。
とっさに顔はかばったが痛さに襲われ目にジワリと込みあげる熱い熱。
だがその熱も今や空洞となった右目には何も感じられず、それが哀しくて少し怒りにも似た感情が沸き起こる。
なぜ自分が、と思う。
望んでこんな身になった訳ではない。
誰が悪い?
『化け物』と罵り離れに閉じ込めた母親なのか。
それをあえて止めようとはしなかった父なのか。
汚れを運ぶ、災いを呼ぶと言い近付こうともしない者達か。
それとも元からこうなる運命だった自分自信なのか。
もう何を憎み、信じれば良いのか分からなかった。
ふいと視線を横に流せば、光を体全体で感じながら風に揺られ踊る花の群れ。
だがそんな花達から少し離れた、陽の当たらない場所に同じ種の一輪の花。
日陰に咲くその花は蒼く色ずいてはいるが他の花と比べると当然の如く背は低く、頭を垂れ元気がない様に見える。
そんな花を太陽の光を浴び続ける花達は嘲笑う様に風に揺れて。
その様が自分の回りにいる人間と被り、頭を垂れる花は自身に見えた。
見たくない。
これはあの者達ではない。と言い聞かせる様に首を振るがなかなかその幻は消えてはくれず、堪らず日陰の花を踏みつけた。