虹色譚詩

□導く標は
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「う〜ん。」

ついさっきまで一緒に帰っていた友達に「ばいばい、また明日ね。」なんてありきたりな台詞を言って別れたのがつい数分前。

今は何時だろう?そろそろ見たいテレビが始まる時間ではないだろうか。そんな事を考えて携帯を取り出すべく制服のポケットに手を突っ込むとカチリと指先に当たる携帯とは違った何か。

その正体を私は知っている。
反射的に目的の携帯ではなくその何かを私はポケットから取り出した。

それはあの蒼い石。

指で摘んでも、手の中でコロコロと転がしてみてもなんのへんてつもない只の、少し綺麗な石にしか見えない。そこで冒頭の唸り声に戻る。

「夢、だったのかなぁ?」

あの夢なのか何なのか分からない体験をしてから早くも3日がたとうといている。

ポツリと呟き言葉にすればなお、夢だったのではないかと思えてくるから不思議だ。

だけどあれが夢で無かったのは膝のうっすらと出来たカサブタを見れば明らかで。
しかも鞄にしまっていた封の開いていない筈のミネラルウォーターも半分以下に減っていたのだ。

ここまでくれば流石にあれは夢だ、夢だなんて事は言ってられなくなる。
仮に現実に起こったことだとしたら私は一瞬だけタイムスリップした、と言う事になるのだろうか。

しかもあの男の子が名乗った伊達政宗の幼名が本当の名前だとするなら、戦国時代に。

「…梵天丸、か。」

いきなり目の前に見知らぬ女が現れてしかも急に居なくなったんだ、さぞ驚いたに違いない。

そう言えば私が持っていたペットボトルや絆創膏を不思議そうに見ていた事も非現実的だけどタイムスリップしたと言うならばつじつまが合う。

なんの意味があって私はそんな経験をしたのか。
考えてみるも答えなんて分かる筈もなく。

ただ分かっているのはこの蒼い石から始まった、と言う事だけ。

「ん〜、なんだったんだろう…?」

幾等いじっても何の変化も見られない、コロコロと掌で転がしていた石を光に透かすようにして目の前でかざしてみた。

「あ、綺麗…。」

陽が落ち始めた空は、半分オレンジ色に染まっていて反対の空にはこれから輝きが増す月がうっすらと姿を見せ始めていた。本来なら相容れない二つの存在がこの限られた時間帯だけ見られると言うのはなんとも幻想的だ。


夕陽に向かって石をかざすと燃える様な色へと変わり、薄く色付く月にかざすとその石は蒼よりもさらに濃い紺、藍色へと変化する。

そう言えば子供の頃はラムネに入っていたビー玉を良くこうして光に透かしていた。

少しでも角度を変えればキラキラと光に反射しながら色を変える石に夢中になる所を見ると、私は昔からあまり変わっていないのだろうか。
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