ぽかぽか行進曲
□夢現
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どれほどこうしているだろう。
もしかしたらまだ10分とたっていないのかもしれないが、随分と長い間壁に背を向け仁王立ちの格好をしているように思う。
これからどうするべきか。
私の布団を陣取る様に今も寝こける大人4人。いや、この場合は子供と言った方が正しいのか。
とにかくその子供達を起こさなければ何も始まらない。そんな事は百も承知なのだか、実際は行動にうつすのは中々難しい。
だってこれからの私の行動で人生が大きく変わる筈だから。
いざ、声を出そうとすると緊張からなのかかすれた音しか出ず、暖房器具なんて物は一切ない部屋は寒い筈なのにそれでも手には嫌な汗がジワリと広がった。
声を掛けるにしても何て言えば?
「おはよう?」「朝ですよ?」「そろそろ起きたら?」
もしくは声も掛けずに蹴り起こすのもありかもしれない。
目を閉じて一人うんうんと考える。ああ、人を起こすだけなのにこけまで悩んだ事なんて今までにあっただろうか?
テレビもついていない部屋は4人の小さな寝息と唯一ある目覚まし時計のカチカチという音で支配されている。
そんな静かな空間では私の緊張は高まるばかり。時計の秒針よりも早く刻む私の心音を少しでも落ち着ける為に一度、息を吸った。
意味なくラジオ体操の様に腕を大きく動かしたりもした。
そんな私は人類を代表して月に降り立ったアポロの宇宙飛行士の気分だ。ただ人を起こすだけ。言ってしまえば一言で終わりなのだが、まるで私はこれからとてつもなく偉大な事をするような感覚に襲われ自身に気合いを入れる為に「よしっ!」と心の中だけで意気込んだ。
だがそんな私を更に急かす様に部屋中に響く爆音。
バッキューン♪
「!!」
そんなま抜けな音と共に射抜かれた私の心臓は一瞬で凍りつき、まさに神速のごとき速さで制服のポケットに入っている音の発信元である携帯電話を捻り潰さんばかりの勢いで止めた。
たったそれだけの動作なのに体の毛穴という穴からは汗が吹き出し携帯を持つてはブルブルと震えている。
心臓はバクバクなんてもんじゃない。一瞬止まった。
きっと世界で一番恐ろしいおばけ屋敷にだってここまで驚かされる事はないだろう。
手に収まっている携帯電話はメールの着信を知らせる為にチカチカと光っている。漫画の様にタイミングが悪い携帯にここまで殺意が沸いたのは初めだ。