基本銀新2

□「炬燵に入るときは…以下略」2(完結)
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ひょこりと畳から餓鬼が生えた。

そう…あの万事屋の眼鏡。いつもの袴を着て屯所の俺の部屋の畳から腰から上を出して、にょきっと出てきた。


「………」

ぽろりと筆が落ちた。仕事の最中だった。春うららかな昼下がり。
今日は比較的仕事が楽なもんで、部屋に篭って書類整理にいそしんでいた最中だった。


ああ、夜中じゃなくてよかった。
夜中にこんな上半身だけの人間が畳から出てたら腰抜かして絶叫しそうだ。いや発狂する。


「え、あれ、土方さん?ってここ屯所ですか?」

あああ…しゃべってくれてよかった。確かに眼鏡だ。あの万事屋のチビだ。
これで畳からにょきっと生えたまま黙って恨めしげに俺を見つめたりされたらもう裸足で逃げ出すしかない。ていうか髪の長い知らない女とかじゃなくてよかった。いやそれって絶対幽れ…いやいや。


「あーもう…本当!この炬燵は!」
と眼鏡が困った顔してそして畳の下に叫ぶ。

「銀さーん!聞こえてますか?僕なんかまた変なところへ!ちょっと銀さん!」
ひとしきり叫んだ後
「ああ…もう嫌になっちゃう。もう化け物炬燵もらってくる銀さんが悪いんだから」なんてぶつぶつ呟いた。

それから俺をみて「なんで土方さんのところかわかんないんですがお邪魔してすいません」なんてぺこりと頭を下げた。畳から上半身を生やしたまま。


「あ、お仕事中ですか?」

「………」
声が出ねえ。内心『ワアアア』と叫んでひっくり返りたい気持ちだがびっくりしすぎて動けない。


タイミングがいいのか悪いのか山崎がやってきて「失礼します」と襖を開ける。

「副長。この間提出した書類の件なんですが」


そして文机の前で固まってる俺と畳からにょっきり生えている眼鏡を見て、しばらく何度も見返して目をこすってそして何度も眼鏡を見つめて…

「あ、山崎さんこんにちは」
眼鏡が首だけ回して山崎を振り返った。

「いいお天気ですね」
にこりと笑うと山崎は「うわああああ」と叫んで縁側からひっくり返った。

ああ、有難い。
俺がやりたかったリアクションを無様にやってくれたおかげで俺は固まったままですんだ。
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