沖田総受4

□移り香(完結)
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気がつけば畳の上。
前も後ろもまだ濡れたままで、しどけない格好で横たわった自分に気がついた。

「お、れ…」
「あ、気がついた?沖田君」
銀時がいつもの格好で胡坐をかいていた。何事もなかったような飄々とした姿。


「気失ってたの、ほんの数分だよ」
手には煙草。ふうと煙を吐き出す。土方と違う銘柄なのか嗅ぎなれない匂いだった。

「…旦那、煙草」
「ああ、いつも吸わないけど」
にっと笑って灰皿に押し付ける。そしてまた新しい煙草を咥えて火をつけた。


「この灰皿、土方へのプレゼントじゃなかったの?いいの?」
「…へえ」

何の気になしに入った店で見つけた硝子製の小さい灰皿。細いラインの黒の意匠が妙に土方に合うようでラッピングしてもらったが部屋に持って帰った時点ではずかしくなった。
いまさら誕生日プレゼントなんてあげる間柄でもない。包装を破いてそのまま机に放置していた。



「アイツ今日誕生日だって?何してんの?」
「…さあ」

久しぶりの非番だ。女でも抱きにいってるんだろう。
沖田はぼんやりした頭で考える。


「で、沖田君はすっきりした?」
冗談めかした声に笑ってみせる気力もなかった。

「…も、…旦那」
「へいへい。帰れってね。事が終わると冷たいねー沖田君」


銀時は立ち上がる。それから嫌そうに黒の着流しをつまんだ。

「これ、捨てていい?」
「あ、だめ!」
慌てて奪い返した。情け無い。こっそり持ってきた土方の着流し。頬に押しあてると煙草の移り香がまるで土方の傍にいるようで返せずにいた。

押入れの奥につっこんでいたのに目ざとい銀時にみつけられてしまったのは先日だ。


「どこがいいんだろうねーあの女好き」
「……うるせえ」
「せっかくまた屯所まで忍んできてやったのに」
おやおや、と行った風に首をすくめた。


「沖田君、泣きそうな声で『旦那…』とか電話で呼ぶし」
寂しかったんでしょ?あのニコチン野郎の誕生日。

そう言われて沖田は銀時を見上げる。
そうだ。寂しかった。一緒に祝えない自分が寂しくて…また銀時に甘えてしまった。

「旦那…」
ごめんなせえと言おうとした沖田の言葉をさえぎって銀時は笑う。
「ま、俺は役得だけどねー」
銀時は深く吸ってから紫煙を勢いよく吐き出した。顔面に吹き付けられてむせる沖田。

「…ちょ、っと!旦那!」
立ち込める紫煙。白い筋が天井に立ち上る。

「もう、あの野郎の匂いしねえよ。その着流し」

沖田の握り締めた着流しを指差して、そして銀時は来たときと同じようにするりといなくなった。



「またな。沖田君」






部屋に残るは煙草の香り。
土方とは違う煙草の香り。


銀時が吸った煙草はどこか甘い香りがした。




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