基本銀新2
□二人のフォスカリ2(完結)
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プロローグ
慌ただしげな朝の駅構内にばらばらと学生鞄の中身がぶちまけられた。
あ…
新八は息を呑む。前を歩いていた学生が定期か何かを出そうとしている間に通りすがりのサラリーマンがぶつかり、彼の鞄をひっくりかえしたからだ。
ぶつかったサラリーマンはちらりと相手をみてそのまま立ち去った。残されたのはぶちまけられた中身を拾う学生だけ。慌ただしく横をすり抜ける朝の通勤の人ごみでは誰も手伝う人もいない。拾おうと手を伸ばしたものを通行人に蹴られて、学生がチッと舌打ちしたのが見えた。
「大丈夫ですか?手伝います」
思わず駆け寄ってしまった。
一緒に散らばった中身を拾い始めると驚いたような顔をした相手と目があう。違う学校の生徒だ。制服からみて近隣の、新八の学校とライバルと銘される進学校。一緒に拾う新八に相手は「ありがとう」と笑った。眼鏡をした顔が理知的で落ち着いている。
…三年。同級生だ。僕より随分大人っぽいけど…
ジャケットの胸ポケットについている校章のVの文字をみて新八は荷物を拾いながら思った。
「あ、」
新八が声をあげた。
上に被せる形の筆箱の蓋がせわしげな通行人の足に蹴飛ばされて自動販売機の下に滑り込んでいったからだ。
「あ…いいよ。そんな」
相手が声をあげる。
「あと…少しでとれそうです。」
新八は身をかがめて地面にはいつくばるようにして自動販売機の下に手をいれた。
「いいよ。ほら、制服汚れる」
「いえ…あとちょっと」
指先に何かが触れた。
「あ…!とれました!」
嬉しそうに新八が手にしたのは500円玉。自販機の下に落ちていたようだ。
「…と違いました」
ぶっと相手が笑う。
「いいって。もう」
「いや…ほら」
再び手を自販機の下に入れた。頬が床に触れていたが気にならなかった。あと…少しでとれる。うん。
「とれました!」
満面の笑みで筆箱の蓋を掴んでふりかえると困ったような相手の笑顔。
「ありがとう。…顔汚れてる」
清潔そうにぱりっとのり付けされたハンカチで顔を拭われて途端に新八は恥ずかしくなった。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ」
相手の嬉しそうな笑顔に新八も笑う。よかった。僕でも役にたったかな。
「これどうしましょう」
手の中の五百玉に気がついていうと
「ジュースでも買えば?」
なんて言われて…
「君…その制服って」
「ええ」
自分の高校の名前を言うと相手の目が眇められた。
「一年生?」
「…三年です」
少し複雑な気持ちで学年を述べると
「ごめん。同級生なの…そう奇遇だね」
と相手が笑いかけた。
新八が返事をしようとした途端、目にはいった時計。やばい遅刻だ!
「ごめんなさい!行かないと遅刻です!」
拾った500円玉を相手に押しつけて駆け出した。
…やばい!一時間目は銀さんの現代文だし!
「あ!ちょっと君!名前を…」
制止する声に礼をして新八は慌てて学校を向かった。
それが始まりだった。