基本銀新1
□ぼくらの逢瀬(完結)
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「半年、いや三ヶ月だけでいいから」
「えー困ります。」
僕は万事屋の玄関先で新聞勧誘のおじさん相手に押し問答していた。
「じゃあさ、一ヶ月サービスつけるから半年」
「いえ、ほんとにちょっと」
悪いけど万事屋にはそんな余裕ない。尋常じゃないエンゲル係数でホントぎりぎりの家計なんだから。
「あー今日契約とれないと俺帰れないんだよな」
おじさんの悲しげな顔。薄い髪が秋風に揺れる。
「娘の誕生日なんだ。早く帰ってやりたい…」
「そうなんですか…」
でも無理なものは無理なんだ。ごめんね。おじさん。
「おめでとうございます。でも…」
「6歳になるんだ。かわいいよ。」
胸元から定期入れに入れた写真を見せられて僕も思わず微笑む。
ピースしたやんちゃそうな女の子。
「かわいいですねー」
「そうなんだよ。ほら前歯ないだろ?ちょうど今永久歯がはえてきて」
「へえーそうなんですか」
「大きくなったなあって思うよ。」
「来年は小学校ですか?」
「うん。ランドセル、ピンクのハートのがいいって。高いんだ」
「でも6年間持ちますものねえ」
おじさんはくりっと僕をみた。
「ね、半年だけ。2ヶ月サービスするから。」