沖田総受2

□よしや淵瀬に身は沈むとも(前編)
1ページ/17ページ


『伊東先生が帰ってくる。』

屯所は今その話でもちきりだ。

相変わらず折衝事は苦手な近藤さんにかわって幕府を相手に大活躍だったと聞いている。かなりの軍資金をあの渋ちんの幕府から引き出した頭脳派だ。剣を振り回すだけの俺たちにはなかなかできねえ芸当ができるお人ではある。

そりのあわねえ土方さんが伊東の帰来にいらいらしてるのがよくわかった。

まあ、俺に言わせれば、土方さんも伊東もタイプは違えどよく似てる。それでなおさらお互い合わないんだろうけど・・・。









一年前のことだった。

その日はでけえ花火大会が行われるってんで俺たち真撰組は警備に大わらわ・・・なはずだったが、前日急な捕り物が行われ、命をかけて剣をふりまわしてた俺たち一番隊や数人の精鋭メンバーはかなりの負傷者も出たクタクタの有様だった。

まあ、地元の花火大会だ。人数はたりねえだろがたいしたいざこざもねえだろうてことで、さすがの鬼土方も今日は俺たちを警備からはずして非番としてくれた。


「おい、土方。」
俺は私服の着物に着替えて祭りに飛び出す。ちらちら出始めた屋台や浴衣姿のおねえちゃんを横目にうきうきと真撰組詰め所に顔をだした。

こんな時に非番だなんてめったにねえ。屯所でごろごろ寝てはいられねえや。今日はおもいっきり楽しんでやるぜ。
隊服姿で警備配置を行う土方さんにそういうと
「おめーはいっつも楽しんでやがるじゃねえか。隊服着てるか着てねえかの違いだろうが。」
なんて煙草をくわえたまま渋い顔で返した。


「なんかおごりやがれ。腹へった。」
そういって袖をひくと怒るかと思いきや
「ちょっと待ってろ。指示が終わったらしばらく体が空く。見回りがてら付き合ってやるから。」
と頭を優しげにぽんぽんと撫でられた。


…コノヤロー。
同僚だ上司だとなんだかんだといいながらも時々ふと出る土方さんの俺への扱い、武州にいるときからかわってない。まるっきり子ども相手だ。

「早くしやがれ。マヨヤロー。祭りの夜は短けえんだぜ。」
「馬鹿。俺は仕事中だっつーの」

そういいながら忙しく指示をこなす土方さんの後ろ姿を俺は壁にもたれて見ていた。



…アンタだって昨日今日の捕り物で働いたじゃねえですかい。俺たちに休みはくれてもアンタは休みなしですかい。



「わりい、待たせたな。」
しばらくしてやっと土方さんが俺の方に歩いてくる。人混みの中でも人目をそばだてる色男だ。

「ああ、まったく待ちくたびれたぜ。ウスノロヤロー。」
「っておまー!人がわざわざ・・・」
「財布もってねえんだ。アンタがいないと何も食えねえんだ。しっかりしやがれ。」
「ってなんで持ってこねえんだ!」


だってアンタそういえば俺についててくれるでしょ?そこで金だけ渡すようなタイプじゃねえし。


いつものようにぎゃーぎゃー言い合いながら歩くとすぐに
「あら、土方はん。」
瓜実顔の粋なお姉さんから土方のヤローは声を掛けられた。

「ちょっと、ひさしぶりじゃないのよ。」
「ああ・・・」
昔なじみの相手のようだ。あか抜けた感じがそこらの素人じゃねえ気がする。

背の高いすらっとした体つきだが、胸や腰はボリュームがあって、薄い浴衣ごしにその肉感的な体つきをあますところなく感じさせる。まとめた髪から垂れる後れ毛を白い手でかき上げる所なんか妙に色っぽい。

案の定通りすがりの男どもがちらちらと視線をなげかけていった。美女にみとれ、そのあと一緒にいる土方さんをみて仕方ねえなって顔をする。
あーお似合いだなあ。けっ。色男め。

俺はぼんやり二人を見ていたが、はっと我に返った。ぼうと突っ立ってるのも芸がねえ。祭りの夜は短けえんだ。

「先いきやすぜ。」
「おい、総悟。」
土方さんの制止を聞かず、俺は混雑する人の波に体を入れてずんずんと歩き出した。

…くそっ。なんでい。ヘタレのくせに女たらしめ。バカヤロー。せっかくの祭り気分が台無しだ。むかむかと早足でその場を離れる。やに下がった顔もみたくねえや。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ