沖田総受2

□よしや淵瀬に身は沈むとも(中編)
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「沖田君。」

名前を呼ばれて袖を引かれる。
そのまま、屯所の人気のない庭先で木に押しつけられて、伊東にキスをされた。

「昨日はどうも甘かったね。われながら。」
唇をほとんど離さず、吐息のかかる距離で伊東が呟く。薄荷の匂い。潔癖そうな伊東らしいなとぼんやり考える。
土方さんとキスしたらやっぱり煙草の味で苦いのかな。ふとそう思ってあわてて頭を振った。

再び唇が降りてくるのを手で止めて聞く。
「アンタは俺をどうしたんですかぃ。」
「どうって?」
伊東の唇に当てた俺の手をつかんでそのまま手ひらにキスしながら伊東が逆に聞いてきた。
「こんなんで満足なんですかい?」
アンタ俺を好きなんでしょ?心はいらないんですかい?

そういうとふっと伊東が笑った。
「心なんて、手に入れたことはないよ。僕は。何でも手にはいるけれど、僕のほしい人の愛情や関心はいつだって手に入らない。」

それから俺のこめかみにキスして
「手に入れようと考えるから苦しいんだ。わりきって体だけでいい。」
そう囁く。

「その割には甘いじゃないですかい。」
昨日の伊東を思い出していうと、伊東が苦笑した。
「そうだな・・・。」
俺の手を握り込んだまま、再びキスが再開された。


木に押しつけられた体の上に伊東が被さり、上を向かされて深い口づけが続く。
息があがって、思わず伊東の腕にすがると、「心も欲しいに決まってる・・・。」
とかすれた声で伊東が言うのが耳に入った。

その切なげな声の調子に俺は胸を突かれる。

俺のこと好きなんだ。俺が土方さんが好きで苦しいのと同じで伊東も苦しいんだ。
当たり前だけど、今まで気がつかなかった伊東の気持ちをなんだかそのとき初めて気づいた気がした。

俺を抱きしめる伊東の腕に頭を預けてため息をついた。
「アンタ・・・思ったより不器用なんですねぃ。」
そう言ったあと、
「もう戻りやすから。」
伊東の体を押し退ける。
そろそろ土方さんが俺を探してる頃だと思った。

昔からまあ、そうだったが、伊東のことがあってからの土方さんの俺への監視具合といったら山崎にその異常さを指摘されるほどだ。

俺の一挙手一投足から目を離さないでいるのをひしひしと感じる。俺の保護者のつもりなのに加えて伊東と俺の癒着は確かに副長として気がかりなのだとは思うけれど・・・。
今頃俺をさがしてるだろう。そう思って歩きだしたとたん、体中が凍り付いた。
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