沖田総受2

□よしや淵瀬に身は沈むとも(後編・完結)
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次の日 俺は土方さんと顔もあわさず、伊東の迎えに旅立った。

前々から近藤さんに依頼されていたものだ。近藤さんは伊東が確執なく真撰組にとけ込むには、というか土方さんと相対するにはどうすればいいか前々から心を砕いていた。そして俺に白羽の矢がたった。
曰く、俺が伊東に近づけば土方さんもすこしは伊東に心を許すだろうと。

まあ、はっきり言って、近藤さんらしい楽観的な考え方だ。実際は逆なんだろうけど。



「・・・沖田君。」
俺をみた伊東の顔。俺もなんとなく感慨深くなって思わず感傷的になっちまう。
江戸を前に泊まった旅館で伊東に引き寄せられた。

「会いたかったよ。」
近づく唇。俺は顔を背けてキスを逃げた。
「わりい。伊東さん、もう、」
「なんで」
伊東はそのまま背けた俺の首筋に唇を落とす。
「俺、土方さんが」
「知ってる。」
甘く首を吸われた。ああ、俺この人のこと嫌いじゃねえ。
いや、だからこそ・・・
「土方さんに好きだっていいやした。」
ぴたりと伊東の動きがとまった。


「・・・で?」
低く押し殺した声。
「いや、それだけでさ。伝えただけ。」

あの夜のことは、一夜限りの事だ。血に匂いに興奮してああなっただけのこと。土方さんにとっては女を抱くのと変わんねえ。おれは、そう思っている。

土方さんに抱かれた。それだけでいい。
とにもかくにも俺は土方さんに抱かれて気持ちを伝えることができた。もう、それだけでよしとする。俺は・・・。

俺はまた、真撰組一番隊長の沖田総悟に戻る。そう旅の間で何度も心に言い聞かせていた。


「伝えてどうにもならなかったのかい?」
「・・・まあ、似たようなもんでさ。」

俺の抵抗も気にせず伊東が唇をふさいだ。伊東の薄い舌が唇を割って侵入して俺の口腔をかきまわす。舌を絡めて唾液を吸われて思わず息があがった。強く抱きしめられる心地よさに思わず身を任せたくなった。

「やめてくだせえよ。」
胸元に侵入してきた冷たい手を掴んで俺は強く押し返す。正直伊東のことはきらいじゃねえ。だから、だからこそ、こんな利用するようなことはしたくねえ。

「・・・駄目かい?」
伊東の切なそうな視線に俺は思わず流されたくなる。俺は伊東を振り切って立ち上がった。

「土方さんに気持ちを伝えたからには、もう前みたいにアンタのいいようにはされない。俺は変わったんでさ。」

…言いたいことはそういうことではなかった。でもそういうと伊東は手をひいて笑った。
妙に冷たい寂しい笑みだった。

「僕も前とは少し変わったよ。沖田君。」
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