沖田総受1

□水面の月(完結)
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「…沖田さん アイス食べたでしょ。寝る前に歯を磨かないとだめですよ。」
そういうと
「え?なんでわかるんでぃ?」ときょとんと目をむけた。
「匂いがしますよ。ほら甘いにおい…」
そう言って並んで座っていた隣の沖田さんの肩に手を置いて顔をよせた。
「バニラかな…。あんまりお菓子ばっかり食べちゃだめですよ。」
白くなめらかな頬に自分の顔を寄せて匂いをかぐ。唇まであと僅か。

「ええ?匂い?ザキ すげえ、なんでわかるんでさあやっぱ監察だから?」
沖田さんは無邪気に驚いてその大きな瞳をこちらに向けた。息がかかるほど距離が近い。
匂いなんてわかるはずない。局長が買ってきたアイス。沖田さんがお風呂上がりに食べるのを楽しみにしていたのを知ってたから、かまをかけただけだ。

俺の手は沖田さんの華奢な肩をつかんでいる。薄い寝間着の単ごしにお風呂上がりの熱い体温が伝わり、そのしなやかな体を想像させた。寄せた肌からいい匂いがしてずくりと体が疼いた。

「唇 なんかついてますよ」「え?そう?」
なあんにもついてないのに指でその柔らかい唇をそっとぬぐう。
沖田さんは「やっぱ四つは食べ過ぎたかなあ…」なんて暢気なことをつぶやきつつ。


…これくらいいいでしょ。

ちょっと触れるくらい。
どうせ俺の手の出せる人でないから。


ねえ、副長?

ずっと前から流れてたどす黒い怒りのオーラを背中にひしひしと感じながら沖田さんからそっと手を離す。

「副長、休憩ですか?」
振り返りながら声を掛ける。
「今ちょうどお茶をもって行く途中だったんですよ。」そしらぬふりをして立ち上がり「沖田さんに飲まれちゃいましたけどね。」と笑った。

「あれー土方コノヤローいつからいたんでい」暢気な沖田さんが声を上げると副長はその男前の顔に眉をよせた。
「山崎!茶いれなおしてこい!」と俺をにらみ「総悟!ちょっとこい!」と沖田さんを呼んだ。

「なんでい ニコチン切れかい。いらいらしやがって。」
沖さんは猫のようにのびをしてたちあがり「ごっそうさん」と俺の横をすりぬけていった。手を伸ばせば届く距離。引き寄せればこの腕の中に。


でも手は伸ばせない。俺のものになるわけでもなく。手を伸ばせば崩れてしまう。


そうまるで、水に映った月。
 



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