沖田総受1

□総悟君の執事(前)
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「総悟君の世話役だよ。」
あ、もう呼び名が沖田君から総悟になってる。

なんだか飄々とした感じのひとだ。やわらかそうな白髪がぴょんぴょんと跳ねてけだるげな感じが妙に俺に安心感を与えた。

「執事ってあれですかい。でっけえお屋敷にいてセバスチャンとか名前が付いてる・・・。」

坂田さんはくすくすと笑って階段を上る。

ホールの真ん中にある意匠をこらしたでっけえ階段。うお。池田屋階段落ちができそうだ。

「ここは良家の子弟ばかりだからね。学生時代から人との接し方や帝王教育をたたき込むために企業から送られたお目付役をつけるトップエリートたちもいるんだ。」
と言った。

「俺はちがいますぜ。遠縁のおじさんかなんかに学校に行かせてもらってるだけですから」
「ま、それはいいけど」
と坂田さんは俺の話を遮って、部屋の扉を開ける。
重厚な木の板。樫の木一枚板か。すげ。近所の長屋の大工の棟梁の旦那から教えてもらった木の値段が頭に浮かんだ。

「ここが総悟くんの部屋だよ。一人部屋だから結構いいでしょ。」
結構な広さで大きなベットと学習机なんかじゃねえ立派な木の机があった。

「わあ。すげー」
俺は喜んで窓辺の大きな開き窓を開けた。窓から続く緑が反射する光と共にさわやかな初夏の風が流れ込んでくる。

「坂田さんは?」
ふと気になって、ふりむいて聞く。
どこにいつもいるんだろっていうか執事って仕事?学校に雇われてるの?疑問を口にすると

「俺は基本は企業人だからさ。総悟君の会社から君が卒業するあと二年間だけお世話と教育のためにきただけだからね。総悟君が社会人になったら、俺と一緒の職場で働けるね。」
なんてのんびり答えてくれた。

・・・「総悟くんの会社」?「一緒の職場」?
相変わらずよくわかんねえ。

「どういうことですかい」
問いかけても坂田さんはのほほんと笑って

「俺の部屋は総悟君の隣の部屋だよ。ほら
コネクトルームになっててここから行き来できるよ。嫌ならこのドアは使わなくてもいいけど。」
確かに部屋の壁にドアがついてる。

「中みる?」
坂田さんはドアを開けて部屋を見せてくれた。
パソコンや難しそうな本が並ぶなんだか大人の部屋だった。ほんのり坂田さんのコロンのにおいがした。

「ここで他の仕事することもあるけど、基本は総悟君のお世話してるから」
自分のベットに腰掛けて長い足を組み俺をみてにっと笑う。
そうすると妙に大人の色気があって、この人がかなりの男前だということを再認識した。


・・・この人結構なエリートじゃないだろうか。飄々としてるけどなんだかこの人あしらいといい、かなり仕事の出来そうな感じだけど。

「他にも執事って人はいるんですかい?」
聞くと
「結構いるよ。トップエリートの証しみたいなもんだから。」
と返ってきた。ますますわかんね。
だからどうして俺にその「執事」がつくんでい。

「おいで」
坂田さんが俺を招いて、大きなクローゼットからいくつか服を取り出した。
「私服も用意してるよ。ほらこんなの総悟くんに似合いそう。」
仕立てのいいシャツを俺にあてる。

「坂田さん。」
俺は言う。
「なに?」

「坂田さんのいうこと俺よくわかんねえんだけど、学費と寮費出してもらってるだけでもありがてえんだ。働くようになったら一生懸命その面倒みてくれてるおじさんに返すつもりなんでい。だからあんまり甘えたくはねえんだ。気持ちはその、嬉しいけど。」

正直に思ってることを言った。ばあちゃんがよくこういってた。
『ひとは言葉にしなきゃ伝わらないことが多いんだよ。大事なことはちゃんと伝える努力をしなきゃ。』って。

「俺、ずっとこれから一人だと思ってたからこんな風に俺のこと気に掛けて世話焼いてくれる人がいるなんてすっげえ嬉しいでさ。でもあんまり甘えるつもりはないんでさ。」

まっすぐ坂田さんをみていうと坂田さんはちょっと黙って俺をみて
「あーもう」なんて頭をがしがしとかいた。


「俺のこと、銀時でいいよ。」
話が飛んだ。
「年上をそんな呼び捨てできやせん。」
ばあちゃんも姉ちゃんも礼儀にはうるさかった。

「いいんだよ。俺は総悟のためにいるから。」
あ、今度は「君」が抜けた。

「『坂田さん』じゃああんまり他人行儀じゃねえ?」
「んじゃ、『旦那』って呼びます。」

ずるっと坂田さんがこけた。
「なんで?」
「俺ァ、長屋育ちだから年上の人は旦那ってよんでたんでさ」
「それって、結構な年寄り相手じゃ・・・。」
坂田さんはぶつぶつ呟いてから
「お前面白いな」と俺に笑いかけた。

「そうですかい?」
面白いこと言ったつもりはないけど。
「うん。それでいい子だな。」

それから髪をかき上げてにっと笑った。
なんだか相変わらず飄々としてつかめないけれど、俺をみる視線は結構強くて、なんだか俺はどきんと妙に胸が騒いだ。

「俺には甘えてよ。他の奴らには甘えなくていいからさ。」
そう言ってよしよしって感じで俺の頭を撫でる。

「子供じゃあありやせんよ。」
「子供だって。」

まるっきり子供扱いだけど妙にそれが心地よかった。
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