短編

□一生懸命な君へ
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つい最近、私はずっと好きだった人から告白をされた。
彼には1つ上の先輩に好きな人が居るんだと知って、諦めようとしても諦め切れなくて引きずっていた気持ちは、突然の告白に花を咲かせた。
勇気を振り絞ってその事を聞いてみたら、一体いつの話をしてるんだと叱られたのは記憶に新しい。


そして今日はそんな彼、榛名君と初めてのデートだったりする。
いつも部活や自主トレで忙しい彼が、私の為に時間を作ってくれたのだ。


ショーウィンドウの中を見ながらのんびりと歩く榛名君の隣を必死にキープする


歩幅の大きい彼に合わせて歩く為には小走りになってしまうのは仕方が無い


それよりも私は重大な事実に直面していた。







「………」

『……//』







先程から一度も会話らしい会話が出来ていない。
榛名君が何かを話しても、緊張して相槌をうつ程度しか返せないでいる



好きすぎて、言葉にならない



話そうと思っても、テンパってしまってバラバラな言葉を並べてしまう。
そんな自分を治して榛名君と普通に会話をするのが今日の目標だ。







『はっ…榛名クン!』

「ん?」

『こ、こここ、このお店!入ってみない!?』

「あー、別に良いけど」

『じゃ、じゃあ、行きましょう!』







まずは折角たくさんお店が並んでる所に来たのだから、何処かに入ってお互いの趣味とか知るべきだと思った私は精一杯の勇気を振り絞って目を瞑りながら傍にある店を指差した。


一瞬だけ見た店の雰囲気は、なにやら色とりどりのパッケージが並んでいた。
きっとCDショップだと思い、榛名君がどんな音楽を好きなのか知る事が出来ると思った。

勢いに任せて扉に手を伸ばすと、左腕を捕まれてそれ以上進まなかった






『どっ、どど、どうしたの!?』

「いや、お前が良いなら別に良いけどさ」

『へ!?』

「ここ何の店かわかってんの?」







混乱したままお店を確認すると、色々なパッケージが並んだショーケースの中には、色々な女性が色々な体勢で色々とあんな感じになっている様が生々しく映されていた

ちなみにCDショップは少し後ろの方に通り過ぎてしまっていた






「お前が本当に入りてぇってんなら止めねぇけど…」

『はっ、入りません!間違えました!違うの!本当はあっちにしようとっ…!!!』

「わかったわかった」






口元を大きな手で隠しながら笑いを堪える榛名君を見てショックを受けた。

また失敗しちゃった…








溜め息を吐きながらたくさん並ぶCDを物色していると、ヘッドフォンをしてジッと立ち止まってる彼の背中を見つけた


チャンスだと思ってどんな曲を聴いているのか覗き込むと、確認が出来る前に榛名君が私に気が付いた




「聴いてみる?」

『え、あのっ』

「ほら」






どうした物かと慌てていると榛名君は先程まで自分がしていたヘッドフォンを取り、私にサイズを合わせて耳に付けてくれた


ドキドキしながら耳を澄ますと、突然激しい音が始まってそれに合わせて歌が流れてきた


違う意味で心臓が跳ねた私が見たのは、榛名君の楽しそうな顔だった






「俺このグループ最近ハマってんだよ。勢いあんの好きなんだよなー」

『そ、そうなんだ』

「どうだった?結構良いだろ?」

『う、うんっ!実は私も、最近気になってたの!』

「まじで!じゃあさ、俺何枚か持ってっから貸してやるよ」

『!//』






野球以外の事を楽しそうに話す彼を見れて、私の胸はキュンと締め付けられてしまった


私はあまり激しい曲は好ましい方ではないけど、榛名君が好きだと言うこのグループの事は好きになれる気がする。







ホカホカと暖かい気持ちでCDショップを後にした

先程と同じ様に榛名君の歩幅に合わせて小走りしようと足を踏み出すと思いきり彼の背中にぶつかってしまった





『ご、ごめんなさいっ!けけけ、怪我とかしなかった!?』





榛名君が怪我に対して異常に神経を尖らせている事は知ってたから余計に浮かれていた自分を呪った


私に向き直って考え込む榛名君

痛い所でもあるのかと心配になって顔を覗きこむと左手が差し出された








「やっぱり手繋ぐぞ。お前ほっといたら人混みに流されそうで落ちつかねぇ」

『て、手を、つなっ…!?//』

「おぉ」






恥ずかしい苦しい心臓うるさい!
どうしようどうしようどうすれば良いの!?

顔に血が上っていくのがわかるという事は見た目にもわかり易く表現されているのだろう

固まってしまった私の手を取って握ってくれた榛名君の手を、何故か咄嗟に払ってしまった






「………」

『ごめっ、今のはその!//』

「いや、俺こそ悪かったな。イヤだったら嫌だって言ってくれてかまわねぇから」

『…え?あのっ』

「んじゃ、次行くか」





怒らせてしまったかもしれない


さっきまで笑っていた彼の表情から笑顔は消えて、無表情になってしまった


嫌だなんて…違うよ。
ただ、ビックリして、恥ずかしくて、一杯一杯で、また失敗しちゃったの…








「……なに?」

『い、嫌なんかじゃない、よっ』

「さっきの反応は?」

『び、びっくりしたの!…ほほほ、本当、は、嬉しかった、よっ…//』







最後は完全に声が小さくなった

恥ずかしさの限界を超えてしまって、何故か目尻に涙が滲んできてしまった




嫌われちゃったかなぁ…








「…ぶはっ//」

『ふぇ…?』

「や、わりぃっ…ククッ…お前すっげぇ一生懸命だから、ちょっとからかったんだよ」

『そんなぁっ!』

「悪かったよ!ん、手繋ぐの嬉しかったんだろ?だったら黙って繋いどけ」








また心臓が跳ね上がって全身が熱くなった


どうやら今日中に榛名君とまともに会話を成立させるのは難しそうだ。














 

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